2019年03月01日

世界の古代文明を継承する日本文化について

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シビルNPO連携プラットフォーム 個人正会員
(NPO法人 関西ミニウイングス 事務局長)
山下 正章


1. はじめに
NPO活動で知り合いになった外国人の方々が、「日本の文化に接すると、何故か穏やかさや懐かしさを感じる。」と言います。また、どこで覚えたのか「一期一会」「経世済民」などの四文字熟語や工事現場での標語「安全第一」「品質第二」「生産第三」の意味を学んでいて、「日本が安全で美しい国である」ことが理解できるとも言います。その理由を探るために日本文化のルーツについて考えてみました。
2. 話し言葉・文字(日本語のルーツ)
世界の言語は、@孤立語(中国語等)、A屈折語(欧米語等)、B膠着語(日本語等)等に分類されています。これらの言語は、古代のメソポタミア文明の地域で話されていた言葉が変化したと考えられています。膠着語は古代の中東でのシュメール語が最も古く、トルコ語、モンゴル語、朝鮮語、日本語などに変化したと考えられています。
文字については、黄河文明での甲骨文字から生まれた漢字が伝わり、大和言葉と融合しつつ新たな仮名が創作され、日本独特の話し言葉や和歌等の文学が生まれたようです。伝統ある和歌の神髄は、本当に伝えたいことをあえて隠し、相手に察してもらうところにあるそうです。だからこそ和歌を学ぶと相手の心を「察する」習慣が身につき「思いやり」や「おもてなしの心」といった、日本文化特有の美徳が育まれるのだそうです。
3. 宗教と哲学(精神文化のルーツ)
世界の一神教はメソポタミアで聖書として体系化され、西方にはキリスト教、東方には原始キリスト教(ユダヤ教・景教)として世界中に伝承されたと考えられています。日本には弥生時代末期に渡来人により原始キリスト教の教えが伝わり、縄文時代からの自然信仰や神話と融合する形で古代神道になったという説があります。日本書記の神話の物語と聖書の物語が類似していることや伊勢神宮の建築様式、式年遷宮のしきたりなどが類似していることなどが多くあることが根拠だそうです。
その後、インドで生まれた仏教が伝わり、古代神道と仏教が融合します。日本では宗教的な意味よりも哲学的な意味を重視していたのだと思います。すなわち、人の生きる道は修行して身に着けるという教えで、働くことが人の道を極めるという考え方です。
4. ものづくり(職人技術のルーツ)
縄文文明におけるものづくり技術は、石器・土器製造、石の加工や研磨などの技術、及び巨木建築、木工、竹細工、藁や麻の加工、貝殻や獣の骨の加工などの生活するための基礎技術であったと考えられます。いずれも世界最古の技術です。
その後弥生時代になると、渡来人により製紙技術や絹織物技術(黄河文明)、鉄などの金属製造技術(メソポタミア文明)などが伝わり、日本の職人が日々改良するとともに後輩に伝授してきました。現在では、先端的な科学技術立国の一つになっています。
5. おわりに
縄文文明を基軸として、世界の文明で生み出されたものを吟味した後に取り入れ、融合・改良してきたものが日本文化ということになります。あらゆる古い文明を破壊することなく継承してきたことは、世界に例がないのかも知れません。
元号も新しくなり、地政学的に恵まれた日本列島で暮らしている日本人がその文化を護りつつ、世界の人々に恩返しをする時代になったように思います。
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第3回 土木と市民社会の溝はどうしてできる?

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(特非)シビルNPO連携プラットフォーム常務理事/土木学会連携部門長
(土木学会/教育企画・人材育成委員会/シビルNPO推進小委員会 委員長)
(メトロ設計梶@技術顧問)
田中 努


「土木」は「Civil Engineering」と言い、市民のための技術・工学のことで、下表のように、国や地域の「インフラ整備」と「防災・減災」を担っています。「土木」は、国民・市民の生命と財産の保全、社会・経済活動の維持・発展のための活動で、本来、市民生活と密着しているものです。
しかし、市民の多くは国や自治体にお任せして、必要な諸施設が存在し、常に機能し続けることが当たり前のように思っているのでは?・・と思います。一方で、土木事業や施設に対して、直接的・間接的に不具合があると反対運動を起こします。マスコミも3K・談合・箱ものづくり・・などの不具合に飛びつき、多くの若者も「土木」を敬遠します。
なぜ、そういう「土木と市民社会の溝・対立関係・土木離れ」ができてしまうのでしょうか?

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「土木」が担う「インフラ整備」と「防災・減災」

■「土木」は「市民」にはそう簡単には理解できない。
「土木」は、国や地域の経済活動や防災のために、高所・大所から決まる政策に基づいて、中長期計画が作成され、調査・設計されて建設され、100年くらい使い続けられるよう維持管理されていきます。「土木」の施設は、マッシブだったり広かったり長かったり大規模なものが多く、見えない地下の地盤構造を的確に評価しなければなりません。また、地震や豪雨・豪雪・暴風など自然の力を、想定外を無くしつつ過大にならないように評価しなければなりません。多くは税金で行う事業ですから、限られた予算内で、様々な視点から最も良いと考えられる事業でなければなりません。

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これらは、様々な分野の多くの学識・経験者や国家資格を持った土木技術者たちが、寄って集って長い時間を掛けて作り上げた結果であり、一般市民には知らないこと・理解できないことが山のようにあります。したがって、多くの土木事業で、官民の土木技術者たちが、市民の意見を聞こうと思わないのが実情です。そのため、一方的な「説明会」で終わってしまうのかも知れませんね。
しかし、このシリーズ「第2回 防潮堤問題にみる土木と市民社会」で紹介された「防潮堤を勉強する会」のように、13 回も勉強会を開催すれば、事業の目的や制約条件等を理解し、前ページの表のような比較評価において、やむを得ない選択・新たな評価項目の追加や重みの変更で変わる選択などが分かるようになれば、事業をより良いものにする仲間として歓迎されるようになると思います。

■「土木」は「市民」でなく「地域」の全体最適を目指す。
「土木」は、上記のように、国や自治体の政策に基づいて、多くの技術基準や条例などの制約の中で、要求される機能を確保すべく、仕様を決めます。例えば、高速道路は高速で安全に走れるよう曲線半径は大きいし、空港は広いので、どうしても集落の一部に移転して貰う必要がある家屋が出てきてしまいます。河川堤防の高さを増すには土堤の幅が必要で、やはり川沿いの家屋は移転して貰う必要があります。どうしても「市民個人」の最適解ではない場合が出てきます。
例えば、津波防波堤。津波の進入を防ぐためには、@高い防波堤で海と隔離する必要がありますが、その後ずっと塀の中で生活することになります。またA高盛土を作って津波の来ない土地を作る方法もありますが、建設に長い年月が掛かり、その間別の場所で生活し、その後も町並みは全く変ります。他にB周辺の高台に住み経済活動は海の見える平地で・・という選択肢もあります。どちらが良いかは人それぞれ。個々の「市民」の価値観や希望は異なるので、全市民の満足を得るのは無理と考えます。
したがって、一方的に計画を説明して、出来るだけ多くの市民の理解と協力を求めるまでで、とどまってしまいます。

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20数年前に聞いた話で定かではありませんが、カルフォルニア州の水道局で、ある地区の望ましい施設を整備する予算がなく、当該地区の住民に集まって貰って、現状の最善案と料金を負担して貰えばこのくらいまで出来るという案を説明して、議論を重ね、住民が合意した案で仕様を決めたそうです。当時の日本では考えられないことでした。
1995年(平成7年)の阪神淡路大震災で、それまで「日本の橋は地震で壊れない」と思っていたことが打ち砕かれ、構造物の建設では「レベルT地震・レベルU地震」という考え方が一般化しました。数10年に1度くらい起きる大きな「レベルT地震」では、構造物は壊れないようにするが、1923年(大正12年)の関東大震災や阪神淡路大震災を起こした巨大な「レベルU地震」では、構造物は損傷して変形してしまうが、壊滅的な崩壊にはさせないという考え方です。つまり、「レベルU地震」でも壊れないような構造物は、異常な大きさと巨額な建設費で、非現実的にものになってしまうため、人が自然の力と真っ向勝負することをあきらめたのです。
2011年(平成23年)の東日本大震災の津波被害では、自然の力の前に人の力の空しさを思い知らされました。「レベルU津波」に耐える防波堤を建設するのは無理だとして、「レベルT津波」を防ぐ高さの防波堤を作り(ハード対策)、それを超える津波は生活エリアに侵入するが、やむを得ないのでソフト対策で災害を軽減するという考え方が生まれました。

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「市民」に被害や我慢を求める以上、土木技術者が導き出した最適解だけでなく、そこに住む「市民たち(市民社会)」との合意形成が不可欠と思います。
近年の、人口減少・税収減少・インフラの老朽化・地震の活発化・豪雨の増強化等の問題山積の前では、土木技術者が最適解を見つけ出すという従来型のスキームだけでなく、その地域の市民に自らの税金の使い方や「リスク」とどう向き合って暮らしていくかを考えて貰う必要があると思います。

■「土木」が行っている「市民」とつなぐ活動と溝
「土木」は、多くが国・自治体・インフラ事業者等が行う事業で、それらの事業の目的や内容は、それぞれのホームページやFacebookで説明されており、事務所に行くと様々なパンフレットや模型・動画などで説明されています。時々、施設や現場を公開して見学会なども行われています。「土木」の実務を担う建設コンサルタントや建設会社でも、その事業の目的や特徴、実現させるために工夫した調査・検討・解析・技術開発などを、工事事務所や技術発表会などで紹介しています。また、土木学会の委員会でも大学でも、市民向けに、様々な講習会・講演会・出前講座をしています。さらに行政・NPOや様々な市民団体の集まりに参画して、課題の整理や工学的な知見を反映した活動に貢献している方々も少なくありません。
土木学会の「シビルNPO推進小委員会」が、ネットで「土木と市民社会をつなぐ活動」を調査したところ、100件くらいの活動情報が集まりました。しかし、私が知らないものばかりでしたし、これを委員会外の方々に見せたところ、こういうのもあるといろいろ出てきます。この小委員会では、Facebookも開設しました。私も始めてみると、様々な土木に関係ある情報を発信している方々や、多くの仲間で土木系の写真や様々な情報交換をしているグループが沢山ありました。
つまり、極めて多くの様々な人々が、あちこちで活動し、多くの「市民」と「土木」がつながっています。
では、なぜ「溝」があると感じるのでしょうか。「溝」があるのは「土木」だけではない。どんな分野でも似たような状況ではないか・・と言う方もいます。
もしかしたら、「溝」と感じるのは、想いに差があるためかも知れませんね。片想い・・・。あるいは顧客ニーズの認識間違えかも知れません。
以上
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 地域社会等

第3回 土木と市民社会の溝はどうしてできる?

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(特非)シビルNPO連携プラットフォーム常務理事/土木学会連携部門長
(土木学会/教育企画・人材育成委員会/シビルNPO推進小委員会 委員長)
(メトロ設計梶@技術顧問)
田中 努


「土木」は「Civil Engineering」と言い、市民のための技術・工学のことで、下表のように、国や地域の「インフラ整備」と「防災・減災」を担っています。「土木」は、国民・市民の生命と財産の保全、社会・経済活動の維持・発展のための活動で、本来、市民生活と密着しているものです。
しかし、市民の多くは国や自治体にお任せして、必要な諸施設が存在し、常に機能し続けることが当たり前のように思っているのでは?・・と思います。一方で、土木事業や施設に対して、直接的・間接的に不具合があると反対運動を起こします。マスコミも3K・談合・箱ものづくり・・などの不具合に飛びつき、多くの若者も「土木」を敬遠します。
なぜ、そういう「土木と市民社会の溝・対立関係・土木離れ」ができてしまうのでしょうか?

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「土木」が担う「インフラ整備」と「防災・減災」

■「土木」は「市民」にはそう簡単には理解できない。
「土木」は、国や地域の経済活動や防災のために、高所・大所から決まる政策に基づいて、中長期計画が作成され、調査・設計されて建設され、100年くらい使い続けられるよう維持管理されていきます。「土木」の施設は、マッシブだったり広かったり長かったり大規模なものが多く、見えない地下の地盤構造を的確に評価しなければなりません。また、地震や豪雨・豪雪・暴風など自然の力を、想定外を無くしつつ過大にならないように評価しなければなりません。多くは税金で行う事業ですから、限られた予算内で、様々な視点から最も良いと考えられる事業でなければなりません。

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これらは、様々な分野の多くの学識・経験者や国家資格を持った土木技術者たちが、寄って集って長い時間を掛けて作り上げた結果であり、一般市民には知らないこと・理解できないことが山のようにあります。したがって、多くの土木事業で、官民の土木技術者たちが、市民の意見を聞こうと思わないのが実情です。そのため、一方的な「説明会」で終わってしまうのかも知れませんね。
しかし、このシリーズ「第2回 防潮堤問題にみる土木と市民社会」で紹介された「防潮堤を勉強する会」のように、13 回も勉強会を開催すれば、事業の目的や制約条件等を理解し、前ページの表のような比較評価において、やむを得ない選択・新たな評価項目の追加や重みの変更で変わる選択などが分かるようになれば、事業をより良いものにする仲間として歓迎されるようになると思います。

■「土木」は「市民」でなく「地域」の全体最適を目指す。
「土木」は、上記のように、国や自治体の政策に基づいて、多くの技術基準や条例などの制約の中で、要求される機能を確保すべく、仕様を決めます。例えば、高速道路は高速で安全に走れるよう曲線半径は大きいし、空港は広いので、どうしても集落の一部に移転して貰う必要がある家屋が出てきてしまいます。河川堤防の高さを増すには土堤の幅が必要で、やはり川沿いの家屋は移転して貰う必要があります。どうしても「市民個人」の最適解ではない場合が出てきます。
例えば、津波防波堤。津波の進入を防ぐためには、@高い防波堤で海と隔離する必要がありますが、その後ずっと塀の中で生活することになります。またA高盛土を作って津波の来ない土地を作る方法もありますが、建設に長い年月が掛かり、その間別の場所で生活し、その後も町並みは全く変ります。他にB周辺の高台に住み経済活動は海の見える平地で・・という選択肢もあります。どちらが良いかは人それぞれ。個々の「市民」の価値観や希望は異なるので、全市民の満足を得るのは無理と考えます。
したがって、一方的に計画を説明して、出来るだけ多くの市民の理解と協力を求めるまでで、とどまってしまいます。

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20数年前に聞いた話で定かではありませんが、カルフォルニア州の水道局で、ある地区の望ましい施設を整備する予算がなく、当該地区の住民に集まって貰って、現状の最善案と料金を負担して貰えばこのくらいまで出来るという案を説明して、議論を重ね、住民が合意した案で仕様を決めたそうです。当時の日本では考えられないことでした。
1995年(平成7年)の阪神淡路大震災で、それまで「日本の橋は地震で壊れない」と思っていたことが打ち砕かれ、構造物の建設では「レベルT地震・レベルU地震」という考え方が一般化しました。数10年に1度くらい起きる大きな「レベルT地震」では、構造物は壊れないようにするが、1923年(大正12年)の関東大震災や阪神淡路大震災を起こした巨大な「レベルU地震」では、構造物は損傷して変形してしまうが、壊滅的な崩壊にはさせないという考え方です。つまり、「レベルU地震」でも壊れないような構造物は、異常な大きさと巨額な建設費で、非現実的にものになってしまうため、人が自然の力と真っ向勝負することをあきらめたのです。
2011年(平成23年)の東日本大震災の津波被害では、自然の力の前に人の力の空しさを思い知らされました。「レベルU津波」に耐える防波堤を建設するのは無理だとして、「レベルT津波」を防ぐ高さの防波堤を作り(ハード対策)、それを超える津波は生活エリアに侵入するが、やむを得ないのでソフト対策で災害を軽減するという考え方が生まれました。

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「市民」に被害や我慢を求める以上、土木技術者が導き出した最適解だけでなく、そこに住む「市民たち(市民社会)」との合意形成が不可欠と思います。
近年の、人口減少・税収減少・インフラの老朽化・地震の活発化・豪雨の増強化等の問題山積の前では、土木技術者が最適解を見つけ出すという従来型のスキームだけでなく、その地域の市民に自らの税金の使い方や「リスク」とどう向き合って暮らしていくかを考えて貰う必要があると思います。

■「土木」が行っている「市民」とつなぐ活動と溝
「土木」は、多くが国・自治体・インフラ事業者等が行う事業で、それらの事業の目的や内容は、それぞれのホームページやFacebookで説明されており、事務所に行くと様々なパンフレットや模型・動画などで説明されています。時々、施設や現場を公開して見学会なども行われています。「土木」の実務を担う建設コンサルタントや建設会社でも、その事業の目的や特徴、実現させるために工夫した調査・検討・解析・技術開発などを、工事事務所や技術発表会などで紹介しています。また、土木学会の委員会でも大学でも、市民向けに、様々な講習会・講演会・出前講座をしています。さらに行政・NPOや様々な市民団体の集まりに参画して、課題の整理や工学的な知見を反映した活動に貢献している方々も少なくありません。
土木学会の「シビルNPO推進小委員会」が、ネットで「土木と市民社会をつなぐ活動」を調査したところ、100件くらいの活動情報が集まりました。しかし、私が知らないものばかりでしたし、これを委員会外の方々に見せたところ、こういうのもあるといろいろ出てきます。この小委員会では、Facebookも開設しました。私も始めてみると、様々な土木に関係ある情報を発信している方々や、多くの仲間で土木系の写真や様々な情報交換をしているグループが沢山ありました。
つまり、極めて多くの様々な人々が、あちこちで活動し、多くの「市民」と「土木」がつながっています。
では、なぜ「溝」があると感じるのでしょうか。「溝」があるのは「土木」だけではない。どんな分野でも似たような状況ではないか・・と言う方もいます。
もしかしたら、「溝」と感じるのは、想いに差があるためかも知れませんね。片想い・・・。あるいは顧客ニーズの認識間違えかも知れません。
以上
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 災害、危機管理等