2019年05月14日

市民が楽しむ土木空間は継続する―中村良夫先生の言葉

img778.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム サポーター
(芝浦工業大学土木工学科教授) 岩倉成志


桃の花が咲き誇る古河公方公園を3月末に訪ねました.子供たちが生き物と触れあい,自由に遊べる空間が都会にほんとうに少ないと長い間疑問を感じている私にとって,求めていた公園がまさにそこにありました.世界の文化景観の保護と管理活動の顕著な功績をたたえるユネスコの「メリナ・メルクーリ国際賞」をアジアで初めて受賞した公園です.

img779.jpg
桃まつりで楽しむ親子連れ

この公園,景観工学の大家である中村良夫東京工業大学名誉教授が設計し,今も市民とともに作り続けられています.私はこの数年,土木技術者のレジリエンス能力の研究をしていて,中村良夫先生に幼少から現在までの20時間以上におよぶインタビューにご協力いただきました.数々の教えの中から,市民自治という文脈でほんの一部をご紹介します.
 中村先生は青山生まれですが,終戦前年の6 才の頃,強制疎開で古河に移られました.都会的な生活とはまるで別世界の生活は十年つづき,谷戸と家の隣の浄善寺が中村少年の遊び場でした.夏は裸足で生活し,鶏が卵を産むのに感動し,近所の子供と魚を釣ったり,虫を捕って,溢れるような生命観の中で楽しく過ごされたそうです.その後,鈴木忠義先生と出会い,景観工学の道を拓き,フランス留学を経て,広島太田川護岸をデザインされた後,偶然にもゆかりのある御所沼の再生を古河市長の小倉さんから依頼されました.耕作地として戦後,沼が埋め立てられ,その後放棄されてしまった湿地の転生に先生は取り組まれました.パークマスター制度という市民参加活動をけん引する制度をつくれられ,現在まで30年間も先生は継続的に関わられています.

市民参加とはプロジェクトの決定過程で意見を言うというのもあるのでしょうが,専門家がつくった空間に市民が意味づけをするという参加の仕方もあるのですと中村先生はおしゃいます.それがないとせっかく形を造っても生きてこない,古河公方公園は市民が利用することで新しい意味を発見したり,解釈したり,デザインを創造していく部分があって,市民がそこで自由に楽しくやる自主的な基盤となっていつまでも継続するのだそうです.

img780.jpg
沼に潜む魚や両生類に遭遇
posted by CNCP事務局 at 10:00| Comment(0) | 地域社会等

ファッションの後ろでがんばる土木を伝えたい

img771.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム サポーター        
一般社団法人Water-n 代表理事 奥田早希子


飲む水には敏感なのに…
筆者は9年ほど前まで、「環境新聞」という専門紙で約11年間、水ビジネス担当の記者として勤めていた。当時はちょうど環境志向が高まり始めた頃で、「エコ」「環境に優しい」といった用語が多く使われるようになっていた。一種の「流行」として環境が語られ、とらえられていた時代と言える。
その頃、一般紙や報道番組を賑わした言葉が「環境ホルモン」と「ダイオキシン」である。環境ホルモンは体内の内分泌代謝に悪影響を及ぼすとして、ダイオキシンは猛毒として、化学物質への不信感が一気に膨らんだ。食品添加物を含まない自然派食品や、有機野菜などが脚光を浴びた。
同時に、水道水に含まれる塩素化合物などの化学物質にも過敏な反応が起こった。水道水に背を向け、ペットボトル水を選択する傾向が強まったのだ。ペットボトルにフックを付けてベルトにぶら下げる若者が増えた。フランス産のボトル水は、特に好まれていたように記憶している。「volvic」という横文字のボトル水をぶら下げていることが、エコでおしゃれだったのだろう。
使った後の水には無関心…なんで?
それらブームに踊って「エコ」だとか「自然派」だとか言っていた人たちは、自分たちが使った後の水がどうなるのかをおそらく想像したことがない。自分たちの口に入るものには細心の注意を払うのに、自分たちが汚した水の行方には関心がない。そのことに覚えた強烈な違和感は、今になっても薄まっていない。
かねてより下水道分野を取材し続けてきた。汚れた水をきれいにして還す。このシステムが無ければ衛生的で安心な暮らしは実現しない。しかし、相手にするのが汚水であるからこそ、その仕事の現場は過酷である。イメージも決して良くはない。だから学生が働く魅力を見出しにくい。結果として、下水道業界は人材不足に頭を抱えることになる。
今ではSDGsやESG投資などを背景として水への配慮が企業経営の要諦になろうとしているのに、こと水問題と聞いて多くの市民がイメージするのは、海や川など公共用水域の水質、不衛生な水のせいで亡くなっていく途上国の多くの子ども達ではないか。きれいな海の裏に、安心して飲める水の背景に、下水道をはじめとする排水処理設備があることにはなかなか思いをはせてくれない。
市民の環境志向は高まっているのに、土木が一翼を担っている水を還す工程への意識は薄い。そのギャップを埋めたいという思いはつまり、本連載のタイトルである「土木と市民社会をつなぐ」ということと同義だと思う。

デニム、スイーツ…身近なところに土木の入り口を作ろう
「つなぐ」という言葉の選定は素晴らしい。下水道をPRするために関係者で組織された任意団体「下水道広報プラットホーム」にも所属しているが、下水道関係者は熱意がありすぎるからか、とかく「市民は下水道を知るべきだ」という一方通行の広報意識に陥りやすい。情報の押し売りは市民との溝を深めるだけだ。ともに考え、ともに行動する。そのためにCNCPが市民と土木をつなぐ“糊”のような役割を果たせればと思う。
筆者が代表理事を務める一般社団法人Water-nの法人名には「水を還す=Water Return」という思いを込めており、「水を還す」ことを考えるきっかけづくりに取り組んでいる。年に2回『水を還すヒト・コト・モノマガジン「Water-n」』を発行し、全国の大学・高専の環境衛生系の教授を中心に約1,800カ所・約7000部を無料頒布している。「DENIM」「OUTDOOR」など学生の身近にあるものを入り口として、デニム製造で出た排水処理の話、キャンプ場の汚水処理の設備などへと導線を引いている。おしゃれや遊びの話と思って読んでいたら水の勉強になった、そんな編集を心掛けている。
「土木を知るべきだ」という思いが土木側にあると、逆に土木は一般の人には伝わらない。「土木とは。。。」というアプローチではなく、日常生活の身近なところに土木への入り口を作るところから「つなぐ」が始まるのではないだろうか。

冊子「Water-n」
img772.jpg
創刊号の特集はDENIM

img773.jpg
2号の特集はOUTDOOR

img774.jpg
3号の特集はHair Styling

img775.jpg
4号の特集はAquarium

img776.jpg
5号の特集はFOOD

img777.jpg
冊子「Water-n」はサイトでご覧になれます(https://water-n.com/page-5/
posted by CNCP事務局 at 10:00| Comment(0) | 災害、危機管理等

長寿社会における生涯学習

img511.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム 副代表理事
 花村 義久


いきなり個人的なことで申し訳ないのですが、私の妻の母は107歳で、この5月1日令和に入り5つの元号で人生を送っていることになります。我々リタイアを65歳だとすると、あと40年あまりあるということになります。この長寿社会でその時間をどう過ごすのか、長寿社会では生涯学習がますます重要になります。
中央教育審議会では生涯学習の振興方策について、生涯学習とは学習者が自発的に行う自由で広範な学習、趣味・教養のみならず社会との関りを通じて個人の生き方や考え方に変化をもたらすあらゆる活動を意味する。今からは、高齢社会というマイナスイメージから長寿を想定した人生設計を行い、社会から支えられる存在でなく地域社会の主役へ向かうべきである、と述べています。
地方自治体でも国の方針に呼応する形で生涯学習の問題に取り組んでいます。私の住んでいる船橋市では、市で作成した生涯学習基本構想・推進計画に基づいていますが、ここでの重点目標は、生涯を通じて学び続けるとともに、学びで得た成果を地域に生かしてつなごう、としています。1次計画では前者が主でしたが、2次計画では後者に力点が置かれています。市では現在国の新たな動きをにらんで、第3次計画の作成に取り掛かっています。
ふなばし市民大学校(学生500人)の私も委員をしている運営協議会では、今までの授業内容が時代に合わなくなったため、委員会のもとに知識人によるカリキュラム特別委員会を設置し抜本的見直しを始めました。その中には生涯学習コーディネーター育成の学科もあり、学習内容や方法の工夫、充実が検討されています。
私が会長を務めている生涯学習コーディネーター連絡協議会(会員190名)では、各公民館など公共施設を中心に市民の生涯学習活動の推進と地域の問題解決のための様々な活動をコーディネーターとして行っています。昨年、組織の活性化と活動の新たな展開のために、会員全員を対象にアンケート調査を行いました。意見が直接文章で出せるような方式を取ったのですが、結果は会員の考えや希望が百人百様という状態でした。それを見て、組織の推進力はこの多様性をどう生かしていくかに掛かっている、そしてそこでは一人一人の自発性が非常に重要であると感じました。
土木学会では、今年の4月号で土木技術者の「学び」について特集を組みました。ここでは、時代の変化、世代別の特性や世代間交流など、いろいろな角度から議論がなされています。この中で特徴的なのは、学習を教育と明確に区別し、従来の土木学会継続教育(CPD)制度を土木学会CPD制度に変更し、CPDに対応する言葉を継続教育から継続学習に変更したということです。技術者の活動と技術者であるために必要不可欠な要素である学びを、学びと実践の関係で捉えて整理し、今後を展望しています。
土木を市民社会やまちづくりなどの面から考える時、生涯学習と市民活動とは緊密な関係にあると言えます。関係機関との相互の連携やネットワークの構築、地域活動と学習成果の活用、コーディネート機能の整備・人材の育成・世代間交流などは大変重要です。
人間が生まれたときに誰も侵すことが出来ない人権を持っているように、高齢者集団は一つの人格を持つ存在として社会に認知されるべきです。長寿社会における生涯学習は、学びながら生きる力を、そして社会の変化に対応できる総合的な力を身に着けていくものです。我々はその過程のなかで、個人個人の持つ力、その時々に発揮できる自分の能力に応じて、社会に応え生活をしていけばいいのではないでしょうか。
posted by CNCP事務局 at 10:00| Comment(0) | 教育研修、広報等