
シビルNPO連携プラットフォーム サポーター
一般社団法人Water-n 代表理事 奥田早希子
飲む水には敏感なのに…筆者は9年ほど前まで、「環境新聞」という専門紙で約11年間、水ビジネス担当の記者として勤めていた。当時はちょうど環境志向が高まり始めた頃で、「エコ」「環境に優しい」といった用語が多く使われるようになっていた。一種の「流行」として環境が語られ、とらえられていた時代と言える。
その頃、一般紙や報道番組を賑わした言葉が「環境ホルモン」と「ダイオキシン」である。環境ホルモンは体内の内分泌代謝に悪影響を及ぼすとして、ダイオキシンは猛毒として、化学物質への不信感が一気に膨らんだ。食品添加物を含まない自然派食品や、有機野菜などが脚光を浴びた。
同時に、水道水に含まれる塩素化合物などの化学物質にも過敏な反応が起こった。水道水に背を向け、ペットボトル水を選択する傾向が強まったのだ。ペットボトルにフックを付けてベルトにぶら下げる若者が増えた。フランス産のボトル水は、特に好まれていたように記憶している。「volvic」という横文字のボトル水をぶら下げていることが、エコでおしゃれだったのだろう。
使った後の水には無関心…なんで?それらブームに踊って「エコ」だとか「自然派」だとか言っていた人たちは、自分たちが使った後の水がどうなるのかをおそらく想像したことがない。自分たちの口に入るものには細心の注意を払うのに、自分たちが汚した水の行方には関心がない。そのことに覚えた強烈な違和感は、今になっても薄まっていない。
かねてより下水道分野を取材し続けてきた。汚れた水をきれいにして還す。このシステムが無ければ衛生的で安心な暮らしは実現しない。しかし、相手にするのが汚水であるからこそ、その仕事の現場は過酷である。イメージも決して良くはない。だから学生が働く魅力を見出しにくい。結果として、下水道業界は人材不足に頭を抱えることになる。
今ではSDGsやESG投資などを背景として水への配慮が企業経営の要諦になろうとしているのに、こと水問題と聞いて多くの市民がイメージするのは、海や川など公共用水域の水質、不衛生な水のせいで亡くなっていく途上国の多くの子ども達ではないか。きれいな海の裏に、安心して飲める水の背景に、下水道をはじめとする排水処理設備があることにはなかなか思いをはせてくれない。
市民の環境志向は高まっているのに、土木が一翼を担っている水を還す工程への意識は薄い。そのギャップを埋めたいという思いはつまり、本連載のタイトルである「土木と市民社会をつなぐ」ということと同義だと思う。
デニム、スイーツ…身近なところに土木の入り口を作ろう「つなぐ」という言葉の選定は素晴らしい。下水道をPRするために関係者で組織された任意団体「下水道広報プラットホーム」にも所属しているが、下水道関係者は熱意がありすぎるからか、とかく「市民は下水道を知るべきだ」という一方通行の広報意識に陥りやすい。情報の押し売りは市民との溝を深めるだけだ。ともに考え、ともに行動する。そのためにCNCPが市民と土木をつなぐ“糊”のような役割を果たせればと思う。
筆者が代表理事を務める一般社団法人Water-nの法人名には「水を還す=Water Return」という思いを込めており、「水を還す」ことを考えるきっかけづくりに取り組んでいる。年に2回『水を還すヒト・コト・モノマガジン「Water-n」』を発行し、全国の大学・高専の環境衛生系の教授を中心に約1,800カ所・約7000部を無料頒布している。「DENIM」「OUTDOOR」など学生の身近にあるものを入り口として、デニム製造で出た排水処理の話、キャンプ場の汚水処理の設備などへと導線を引いている。おしゃれや遊びの話と思って読んでいたら水の勉強になった、そんな編集を心掛けている。
「土木を知るべきだ」という思いが土木側にあると、逆に土木は一般の人には伝わらない。「土木とは。。。」というアプローチではなく、日常生活の身近なところに土木への入り口を作るところから「つなぐ」が始まるのではないだろうか。
冊子「Water-n」

創刊号の特集はDENIM

2号の特集はOUTDOOR

3号の特集はHair Styling

4号の特集はAquarium

5号の特集はFOOD

冊子「Water-n」はサイトでご覧になれます(
https://water-n.com/page-5/)
posted by CNCP事務局 at 10:00|
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災害、危機管理等