2019年08月01日

当たり前の重み

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NPO研修情報センター理事
千葉経済大学非常勤講師 岡室 美恵子


中国の人って土木のことどう思ってる?CNCPの理事さんから聞かれた。中国の社会開発や市民社会支援の事業に長い間従事した経験から、約14億の民に対しステレオタイプで答えるには勇気がいる。しかし、大きく外さないだろうと確信できる答えが1つある。多くの中国の人が恐らく今でも、土木は“国家の大計”と思っているだろうということだ。
1989年2月、作家の戴晴(当時は新聞記者)が三峡ダム建設計画に対する“反対派”の論点をまとめた『長江長江―三峡工程論争』が刊行された。翌月の全国人民代表大会で272 名の代表が建設の早期実施に反対し、姚依林副首相(当時)は最低5年間の延期を表明した。しかし、天安門事件が起こると戴晴は逮捕され、本は発禁、反対派の一部は「右派」とみなされ失脚へ。土木は国家の仕事、土木は政治、市民が登場する余地はなかった。
市民が登場するのは2000年に入ってからだ。01年3月、中国初の“公聴会”が開かれた。“”としたのは、主催者が政府ではなかったからだ。北京市は、汚染と施設の老朽化のため市内の河川、湖沼の治水工事に着手していた。昆玉河の工事もその1つで、土手や土底をコンクリート水路に置き換えていく。生態環境への影響を心配したのは「自然の友」「地球村」「緑家園」という“純民間”の環境三団体。社会主義体制下では、従来、人も企業も事業体も社会組織もみな国のもの。しかし、市場経済化の進展とともに社はパブリックヒアリングという仕組みがあるらしい…北京政府や関係者を招へいし意見交換したらどうか…。後に公聴会は政府や起業者が開くものと知り、「対話会」と名を改めたそうだ。会の終盤、副市長が「非合法組織の組織活動」と一声を発し、その場でメディア各社に報道禁止を言い渡した。
同年、市民参加と環境の重視を条件に「08北京五輪」の開催が決定すると、活動家による “声を公にしていく”ための少々手荒なアクションが増えていった。当時、環境団体は自然や野生動物の保護、ゴミ分別の普及などを主な活動に掲げており、環境は政治から最も遠い分野だった。よって当局は”認めず、近寄らず、取り締まらず”。 裏を返せば、NGOが政府との接点を持つことは極めて困難だった。活動家達は国際会議などの機会を利用して、時には場を占拠するような行動を起こし、訴え、主張を叫んだ。かくいう私も、某パネル討論会の席上「日本のODAで建設中のダムの影響をどう思うか」と突然やられたことがある。

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それが国や地方政府による土木事業に影響を与えていくアドボカシー活動“へと徐々に発展していく。2004年、国内のNGOが協力し、雲南省の怒江(サルウィン川上流。03年に世界遺産)のダム建設計画に対し反対運動を展開、世界ダム大会で国際世論を味方につけ、温家宝首相(当時)は工事の棚上げを発表した。強力なサポーターも後押しした。改革・開放を牽引してきた経済、建設部門と違い、社会のコストを扱う環境保護総局(現生体環境省)は、“ゴム印(法的な権限のみで実権なし)”と軽視されていた。地元の政治経済を環境部門でさえ優先する地方政府との軋轢もあった。NGOを環境同盟軍として「環保暴風(環境保護ストーム)」を吹き荒らし、30の国家プロジェクトの停止・見直しを要求した。
2005年、公式には中国初となる「円明園ビニールシート工事」公聴会が開催された。「人民日報」「新華通信社」がネットで生中継し、主要メディアも大々的に報道した。清代に造営された離宮の遺構にある湖に観光船を走らせるため、湖底にビールシートを敷く工事がほぼ完了という頃、偶然観光に来ていた造園学の専門家が憂慮し、メディアにリークしたのがきっかけだった。01年の「対話会」では、政府側が「専門家が科学的プロセスを用いて論証した。一般大衆はよく理解するように」を強調するのみだったという。しかし、05年の「公聴会」では、出席者は専門家、企業、市民にかかわらず、参加し自らの態度を発表することが求められた。生態系への影響だけでなく施行に至るプロセスは合法か?起業者や施工者の関係は?予算は適切か?市民の意識も向上していた。環境保護総局は工事の全面見直しを要求する一方、市民参加の意義について見解を表明し、翌06年「環境影響評価公衆参加暫定規則」が制定された。
2015年、25年ぶりに改訂された「環境保護法」は、情報公開と公衆参加を明記し、また「環境公益訴訟」の原告適格に“条件を満たす環境NGO”を含めた。日本では未導入の環境公益訴訟は、環境利益が侵害された場合、社会の共同利益を守るために法律で適格とされた機関・団体が訴訟を起こすことができる制度である。
社会主義体制下での市民と国家の関係に懐疑的な見方もあるだろう。徐々に築かれてきたしくみやチャネルの存在を知らない市民も依然として多いだろう。起業者に長期的な理がある場合もあるだろう。しかし、接点をさぐり、溝を埋めるチャネルをつかむことは当たり前ではなかった。しくみや制度の結実は「無」から創りだすことの重みでもある。
土木と市民をつなぐ上で、日本では“当たり前”すぎて、いつのまにか儀礼や休眠状態にさせてしまっていることはないだろうか。令和の時代に再考してはどうか。
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正義の味方ヅラをするメディアの真相

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シビルNPO連携プラットフォーム 理事
 世古 一穂


●「新聞記者」という映画
「新聞記者」という映画がヒットしている
東京新聞記者・望月衣塑子のベストセラー「新聞記者」を原案に、政権がひた隠そうとする権力中枢の闇に迫ろうとする女性記者と、理想に燃え公務員の道を選んだある若いエリート官僚との対峙・葛藤をオリジナルストーリーで描いた衝撃作。東都新聞記者・吉岡のもとに、大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、ある強い思いを秘めて日本の新聞社で働いている彼女は、真相を究明すべく調査をはじめる。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原「国民に尽くす」という信念とは裏腹に、与えられた任務は現政権に不都合なニュースのコントロール。ある日彼は、久々に尊敬する昔の上司・神崎と再会するのだが、その数日後、神崎はビルの屋上から身を投げてしまう。真実に迫ろうともがく若き新聞記者。闇の存在に気付き、選択を迫られるエリート官僚。二人の人生が交差するとき、衝撃の事実が明らかになる

●メディアには闇の存在が跋扈する?
新聞やメディア業界も正義の味方づらをしているが内実は日常化しているセクハラ、パワハラ他の世間にしられたくないことのもみ消しを社をあげてやっていることは周知の事実だ。

土木業界も闇の存在が、跋扈する?
映画「新聞記者記者」をみて市民社会と
土木業界について考えるのも一興では?

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「住民が主役、高校生も目覚める橋点検」

(株)アイ・エス・エス 浅野 和香奈
日本大学工学部 客員研究員


「“土木と市民社会をつなぐ”を謳うCNCPが関わっている「住民主体の橋点検」について紹介する。以下は、日大郡山岩城研究室と(株)アイ・エス・エス(CNCP会員)が取り組む事例である。

1.村の橋を自ら点検・清掃する
福島県平田村では、住民でも点検できる「簡易橋梁点検チェックシート」を用いた日常的な橋の清掃や点検が行われている。初年度の2015年度は村の管理橋梁全63橋中8橋のみで点検が行われたが、現在は60橋で住民によって点検と清掃が行われている。年4回の行政区ごとのごみ拾いや草刈り活動の2回に近隣の橋梁の点検と清掃を付随させている。最初は簡易橋梁点検チェックシートのみを提出していたが、徐々に住民の意識が高まり、現在では行政区長自らが点検報告書を作成し、簡易橋梁点検チェックシートと一緒に提出している。
住民による点検結果から、橋の上にどの程度の汚れが溜まっているかが分かる「橋マップ・ひらた」を作成した。橋マップは地図上の橋の位置にプロットされているピンの色で橋の上の汚れ具合が分かるものであり、汚れが多いほど暖色系、汚れが少ないほど寒色系の色でプロットされ、色は5段階に分かれている。ピンをクリックすると、「橋長」、「竣工年」、前回の「点検日」、「点検結果」、「コメント」、の他、過去の報告書や写真の閲覧ができ、今年度からは定期点検による判定がVとWの橋に対する対応についても見ることができる。橋マップは一般公開されており、住民による点検・清掃時前には各行政区長に配布されている。

2.高校生への広がり―黒川高校での出前授業と現場学習
本取組みは、住民だけでなく高校生にも広まっている。土木工学を学ぶ黒川高校は課題研究の授業の教材としてチェックシートを導入し、橋梁の構造や損傷事例を学びながら旧黒川郡の橋梁を点検している。2016年度は大和町,2017年度は富谷市,2018年度は大衡村で取組み,3年間で3市町村の全管理橋梁165橋の点検と清掃を完了した。
今年度は、大郷町での橋梁点検を実施するにあたり、地元の中学生にもインフラの現状を学んでもらおうと考え、2019年6月10日に「産学官連携事業『橋守活動』を知って自己の将来を考える学習会」が大郷中学校で開催された。2学年の66名の生徒は1時間目〜4時間目まで午前中いっぱい橋について学んだ。学年全体で老朽化問題や、劣化する要因、橋守活動についての講義を行い、橋の劣化要因は「水」が大きく関係することを学んだ後、現場での橋守活動と校内でのペーパークラフト作成に分かれてクラスごとに授業を行った。現場での橋守活動では、中学校の近くにある「宮田橋」に移動し、簡易橋梁点検チェックシートでの点検を体験し、道路脇に生えている草や土砂を清掃し排水機能を確保した。校内では、橋の構造を学ぶために作成した教材、「橋のペーパークラフト」を組み立てながら橋の部材やその役割を学んだ。最後に、産学官それぞれの立場から職業人講話を行った。この取組みは、地元新聞やテレビでも大きく取上げられた。

3.生徒からの反響
学習会後に実施した振り返りシートとアンケートから今回の学習会が生徒に与えた影響を考える。「当たり前のように橋を使っていたけど、今日僕たちが当たり前のように安全に使えるようにしてくれる人たちの努力と気持ちが伝わった」、「ペーパークラフトでは、橋の上からは見えないけど、橋を工夫して壊れにくいようにしていることが分かった」といった感想が寄せられた。さらに、振り返りシートに「橋に関する仕事をしたい、してみたい」と書いた生徒は11人、「橋守活動をしたい、しなければならないと思う」と書いた生徒は19人に上った。また、アンケートの記述欄には、「落橋した橋はどこが悪くなってしまっていたんですか。」、「橋の点検などをしていて一番難しかった場所や橋など体験話を聞きたいです。」といった橋に関する48個もの質問が寄せられ、生徒が橋に関して多くの関心を抱いたことが分かる。以上から、授業に参加した生徒が橋に対する意識が高まった様子が伺え、今回の学習会により、中学生の橋への理解を深めることができた。
地域住民や高校生、中学生など幅広い年代の市民と土木をつなぐべく、引き続き活動を展開していく。

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簡易橋梁点検チェックシート

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橋マップ・ひらた

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