2019年11月01日

『世のため人のため』

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シビルNPO連携プラットフォーム 理事
 山ア 晶


10月の総会にて前任の大田からの交代ということで、理事に選任された山ア晶です。小生、昭和33年7月生まれで、大学を卒業し熊谷組に入社し、現在土木事業本部所属で国内・海外の営業を担当しています。大田の部下として土木界のトップの方の謦咳に触れることが多く、その中で山本代表やCNCPを知り、様々なご縁を頂くこととなりました。
小生、土木の道を歩んだのは、子供の頃の家の庭でのトンネル掘りの楽しさや、映画「黒部の太陽」を見ての高揚感からだったと思います。先日、建築界のトップの方と黒四ダムを訪問しました。その際、その方から「土木の方は皆、公共心が強いですね」と言われました。確かに我々、仕事をするのは家族を養い毎日の生活をするためですが、その中での誇りや生き甲斐は金儲けや出世などではなく、いいものが出来た・世のため人のためにお役に立つ仕事ができたということが大きいと思います。その意味で、建築の先生の言われた「公共心」、自らの事としてよく理解できます。
世間が右肩上がりの状況ではなくなり、土木を取り巻く環境も、維持更新事業の増大や就業者の減少、インハウスエンジニアの不足、地方地域の機能維持等、様々な社会的な課題が急激に増え、その解決が必要となっています。CSVを念頭に立ち上がった「土木と市民社会をつなぐ事業研究会」は、正にこれを見据えているとお聞きしました。企業がその活動の一環として社会的課題解決を図り、その対価として幾ばくかの利益を頂戴するのは、極めて真っ当なことで今後の時代に必須の活動と思います。CNCPは中間支援組織であり、各企業や事業者との関わり方に工夫が必要でしょうが、CNCPと土木学会の繋がりは極めて深く、この点は各組織との連携の大きなポイントと思います。事業研究会の活動、先の公共心に繋がる事項で、大変重要と思います。
CNCPを拝見していると、様々なフィールドでキーマンとして活動している方々を中心に、世のため人のために実に様々な活動を展開されていると感じ、頭が下がります。以上のことは皆様方には釈迦に説法でしたでしょうが、小生もCNCPの実践活動の仲間入りをさせて頂き、微力でもCNCPの発展に寄与したいと心しております。どうか宜しくお願い致します。

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posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | シビルNPOの現況と課題

「市民の信頼を得るには、理念・哲学の構築と生活感が重要!」

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ジャーナリスト(元NHK解説主幹) 齋藤 宏保


2016年の震度7を観測した熊本地震、2017年には九州北部豪雨、2018年は7月に西日本豪雨、9月に北海道胆振東部地震、そして今年は9月に千葉県に大きな被害を与えた台風15号、10月に平成最悪の水害という台風19号に台風21号と、この4年間、地震と台風・豪雨災害に限っても大災害が頻発、大災害時代の幕開けのような不気味さを覚えます。
折しも今年に入り、オーストラリアのシンクタンクが「気候変動で、2050年には最悪の場合、人類文明が終焉に向かうかも知れない」という衝撃的な報告書を発表したのを始め、「2055年には世界の人口が100億人を超え資源枯渇・食糧難が深刻に」、さらに国内でも「今後30年以内にマグニチュード8クラスの南海トラフ地震が発生する確率は70〜80%、その間、マグニチュード7クラスの地震が頻発」、インフラの老朽化も一気に進み、「2033年には建設後50年以上経過する道路橋が約67%、トンネルが約50%、下水道管きょが約50%に」と、先行き不安な予測が次々に出ています。
こうした中で、「土木と市民社会とつなぐ」ことを目的に、地域社会・市民社会の様々な課題解決をめざすCNCPは、こうした時代の動きを読み解き、そのためにはどんな対策が必要なのか、一般市民に向けて訴えかけたのでしょうか。少なくとも私にはメッセージが届いていません。なぜなのか、約40年近くにわたる取材体験を踏まえ、まとめてみました。

私とインフラとの出会いは、コンクリート。人間が作ったものは一体、どの位持つのかというのが動機でした。1982年に社会部記者として初めて取材、1983年にNHK土曜リポート「警告!コンクリート崩壊・忍び寄る腐食」、1984年にNHK特集「コンクリート・クライシス」、1985年から3年間、旧建設省記者クラブに常駐、1993年にNHKスペシャル「テクノパワー〜知られざる建設技術の世界〜」5回シリーズを制作、2000年にはNHKスペシャル「コンクリート高齢化社会への警告」を解説委員として監修。この間、土木学会を始め、旧建設省や、大学、建設会社、セメント業界、鉄筋製造会社、砂利採取現場、生コン工場、施工現場などを取材、なぜ半永久的に持つはずのコンクリートが異常に早く劣化するのか、徹底的に調べました。しかし問題の核心に迫ろうとすると、はぐらかされたり、取材を拒否されたりの連続でした。
また日本では起こりえないとされた「アルカリ骨材反応によるひび割れ」が全国で続発、阪神・淡路大震災では絶対に倒壊しないはずの高速道路が横倒しになるなど新幹線やビルなどコンクリート構造物が大きな被害を受けました。更に東海道新幹線を設計した国鉄幹部からは「ルートは人家のないところ。30年持てばというのが、当時の雰囲気だった」、大手建設会社のトップからは「地価高騰の影響で建設費が削られ、大地震が起きたら建物が大丈夫か心配だ」、大手住宅メーカーのトップからは「30年以上持つものを作ったら我々の業界はやっていけない」など、耳を疑うような生の声も直に聞き、衝撃を受けました。

2012年の笹子トンネルの天井板落下事故は構造的欠陥が原因なのにも関わらず知らんふり。今回の台風19号でも、被害がなぜ増大したのか、治山治水・市街化・下水処理能力・気候変動等を踏まえ総合的に解説する専門家はいませんでした。
また高齢者の運転ミスによる人身事故の急増に対しては、高齢ドライバーに対する批判はあってもインフラの構造上の問題を指摘する声はありません。首都高中央環状線山手トンネルは、照明が暗い上に情報が乏しく、高齢者や外国人のドライバーには運転が容易ではありません。
昨今、凍結防止剤の散布量が増えるのに伴い、道路橋の劣化だけではなく周辺への塩害が深刻になりつつありますが、大きな社会問題になっていません。
なぜなのか、私は主な理由として3つあげたいと思います。第一に、何のため誰のためのインフラなのか理念・哲学が見えず、しかも生活に身近なインフラに関心が薄いことです。

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阪神淡路大震災 横転した高速道路

10月に亡くなった日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんがこだわったのが「現場主義」。「橋守」はまだ一部の地域に過ぎません。これでは説得力がなく心に響きません。第二に、大事故や大災害が起きると“想定外”だと言い訳したり、“不都合な真実”に目をつぶったり、困難に立ち向かう気概・覚悟が見られないことです。第三は、公共事業の目的はインフラを作ることではなく、所要のサービスの提供ですが、肝心のユーザーや生活者の視点がないことです。こうしたことが積み重なって、皆さんの思いが市民に届かないのだと思います。
「萬象二天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ」「人類ノ為メ国ノ為メ」は、信濃川補修工事竣工記念碑(1931年に建立)に刻まれた、土木技術者・青山士さんの言葉です。
土木と市民社会の橋渡し役として期待されるCNCP。多難な未来が待ち受ける次世代に対し、確固たる理念と哲学の下、安全・安心の指針を示してほしいと思います。(了)

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阪神淡路大震災 横倒しのビル

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阪神淡路大震災 落下した橋梁
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「市民の信頼を得るには、理念・哲学の構築と生活感が重要!」

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ジャーナリスト(元NHK解説主幹) 齋藤 宏保


2016年の震度7を観測した熊本地震、2017年には九州北部豪雨、2018年は7月に西日本豪雨、9月に北海道胆振東部地震、そして今年は9月に千葉県に大きな被害を与えた台風15号、10月に平成最悪の水害という台風19号に台風21号と、この4年間、地震と台風・豪雨災害に限っても大災害が頻発、大災害時代の幕開けのような不気味さを覚えます。
折しも今年に入り、オーストラリアのシンクタンクが「気候変動で、2050年には最悪の場合、人類文明が終焉に向かうかも知れない」という衝撃的な報告書を発表したのを始め、「2055年には世界の人口が100億人を超え資源枯渇・食糧難が深刻に」、さらに国内でも「今後30年以内にマグニチュード8クラスの南海トラフ地震が発生する確率は70〜80%、その間、マグニチュード7クラスの地震が頻発」、インフラの老朽化も一気に進み、「2033年には建設後50年以上経過する道路橋が約67%、トンネルが約50%、下水道管きょが約50%に」と、先行き不安な予測が次々に出ています。
こうした中で、「土木と市民社会とつなぐ」ことを目的に、地域社会・市民社会の様々な課題解決をめざすCNCPは、こうした時代の動きを読み解き、そのためにはどんな対策が必要なのか、一般市民に向けて訴えかけたのでしょうか。少なくとも私にはメッセージが届いていません。なぜなのか、約40年近くにわたる取材体験を踏まえ、まとめてみました。

私とインフラとの出会いは、コンクリート。人間が作ったものは一体、どの位持つのかというのが動機でした。1982年に社会部記者として初めて取材、1983年にNHK土曜リポート「警告!コンクリート崩壊・忍び寄る腐食」、1984年にNHK特集「コンクリート・クライシス」、1985年から3年間、旧建設省記者クラブに常駐、1993年にNHKスペシャル「テクノパワー〜知られざる建設技術の世界〜」5回シリーズを制作、2000年にはNHKスペシャル「コンクリート高齢化社会への警告」を解説委員として監修。この間、土木学会を始め、旧建設省や、大学、建設会社、セメント業界、鉄筋製造会社、砂利採取現場、生コン工場、施工現場などを取材、なぜ半永久的に持つはずのコンクリートが異常に早く劣化するのか、徹底的に調べました。しかし問題の核心に迫ろうとすると、はぐらかされたり、取材を拒否されたりの連続でした。
また日本では起こりえないとされた「アルカリ骨材反応によるひび割れ」が全国で続発、阪神・淡路大震災では絶対に倒壊しないはずの高速道路が横倒しになるなど新幹線やビルなどコンクリート構造物が大きな被害を受けました。更に東海道新幹線を設計した国鉄幹部からは「ルートは人家のないところ。30年持てばというのが、当時の雰囲気だった」、大手建設会社のトップからは「地価高騰の影響で建設費が削られ、大地震が起きたら建物が大丈夫か心配だ」、大手住宅メーカーのトップからは「30年以上持つものを作ったら我々の業界はやっていけない」など、耳を疑うような生の声も直に聞き、衝撃を受けました。

2012年の笹子トンネルの天井板落下事故は構造的欠陥が原因なのにも関わらず知らんふり。今回の台風19号でも、被害がなぜ増大したのか、治山治水・市街化・下水処理能力・気候変動等を踏まえ総合的に解説する専門家はいませんでした。
また高齢者の運転ミスによる人身事故の急増に対しては、高齢ドライバーに対する批判はあってもインフラの構造上の問題を指摘する声はありません。首都高中央環状線山手トンネルは、照明が暗い上に情報が乏しく、高齢者や外国人のドライバーには運転が容易ではありません。
昨今、凍結防止剤の散布量が増えるのに伴い、道路橋の劣化だけではなく周辺への塩害が深刻になりつつありますが、大きな社会問題になっていません。
なぜなのか、私は主な理由として3つあげたいと思います。第一に、何のため誰のためのインフラなのか理念・哲学が見えず、しかも生活に身近なインフラに関心が薄いことです。

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阪神淡路大震災 横転した高速道路

10月に亡くなった日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんがこだわったのが「現場主義」。「橋守」はまだ一部の地域に過ぎません。これでは説得力がなく心に響きません。第二に、大事故や大災害が起きると“想定外”だと言い訳したり、“不都合な真実”に目をつぶったり、困難に立ち向かう気概・覚悟が見られないことです。第三は、公共事業の目的はインフラを作ることではなく、所要のサービスの提供ですが、肝心のユーザーや生活者の視点がないことです。こうしたことが積み重なって、皆さんの思いが市民に届かないのだと思います。
「萬象二天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ」「人類ノ為メ国ノ為メ」は、信濃川補修工事竣工記念碑(1931年に建立)に刻まれた、土木技術者・青山士さんの言葉です。
土木と市民社会の橋渡し役として期待されるCNCP。多難な未来が待ち受ける次世代に対し、確固たる理念と哲学の下、安全・安心の指針を示してほしいと思います。(了)

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阪神淡路大震災 横倒しのビル

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阪神淡路大震災 落下した橋梁
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