
NCP 常務理事 土木学会連携部門長
土木学会 教育企画・人材育成委員会 シビルNPO推進小委員会 委員長
メトロ設計梶@技術顧問
田中 努
先月10月1日、CNCPの「令和元年度通常総会」に続いて、講演会を開催しましたので、ご報告します。
【日時】令和元年10月1日(火)
15:30〜17:00
【場所】土木学会講堂
【題目】シビルエンジニアリングに求めるもの ―時代はどこへ向かっているのか―
【講師】青山彰久氏(ジャーナリスト/中央大学経済学部非常勤講師・総務省過疎問題懇談会委員・土木学会論説委員会アドバイザー/元読売新聞東京本社編集委員)
■講演内容青山さんから詳しいレジュメを頂きましたので、全文を載せます。講演の内容や話の展開がうかがえると思います。
1.はじめに
(1)混迷する大都市・東京の目指す姿――五輪・パラリンピック後に何が残るのか
(2)総合的な「知」としてのCivil Engineering のミッション
2.住み心地のいい都市を求めて
(1)渋谷の再開発は何を表現したいのか
(2)都市の再生とは高層ビルを建てることか
・都市再生特別措置法のもたらした都市空間
(3)人口増から人口減へという「歴史の峠」
・「工業化・人口増・都市化」から「ポスト工業化・人口減・逆都市化」へ
・「もっとお金を、もっと便利に」から「もっと美しく、もっと充実した生を」へ
・「コンクリートと鉄」から「水・土・緑」へ、「拡大型社会」から「定常型社会」へ、「従属」から「自治」へ
(4)都市とは何かを考える
・Lewis Mumford(1895-1990)のCulture of Cities(1938)では

都市は、人間が意識してつくった芸術作品、都市は、言語と並んで人類が作り上げた偉大な芸術作品

人間の精神は都市において形成される。都市の様式が人間の精神のありようを決める

都市とは、集団で生活するための物理的施設であると同時に、人々が好ましいと感じる環境の下で、人々が集団として掲げた目標と合意の象徴である
(5)歴史の地層を大切にする
・明治神宮の森と神宮外苑、関東大震災後の隅田川の架橋、築地卸売市場、多摩ニュータウン、新宿西口広場
(6)現代都市をめぐる2つの潮流を考える
・世界都市(Global City)……グローバル化した世界経済の司令塔を目指す(ニューヨーク、ロンドン)
・維持可能な都市(Sustainable City)……地球環境保全を足元から考える(フライブルク、ポートランド)
3.「グリーン・インフラ」への共感
(1)玉川上水の再発見
・江戸に水を供給した玉川上水(1653年完成)を皇居の外濠と内濠に連結させる計画へ
(2)宮城・気仙沼の津波防潮堤
・1500人の死者を出しながら「海と生きる」と掲げた気仙沼。最も歴史ある内湾地区の防潮堤を、4年にわたる住民参加の議論の末にT.P.4.1m(平時には閉まっている1mのフラップゲートをつけて)に抑えた
(3)グリーン・インフラという思想の登場
・1993年の米国ミシシッピ川の大氾濫で米政府が提起(人口的な構造物に頼りすぎず湿地帯を回復する)
・2004年のインド洋大津波で国連が提起(マングローブやサンゴ礁の生態系を津波から守る盾として再生する)
・2013年に欧州連合が「グリーン・インフラストラクチャー戦略」として都市整備への発展を提起(都市農地・緑地帯・遊水池など、自然・生態系の機能を使い、災害時には被害抑制に、平時には景観・アメニティの向上に)
(4)生物学・社会学・歴史学・政治学との横断的な協働
・歴史遺産・地形・自治を重視し、旧来型のインフラ(グレー・インフラ)技術を補完する新しい技術思想に期待
■講演の感想青山さんは、早大の仏文科を出られたジャーナリストですが、地方自治、地域政策、都市問題・農山漁村問題にお詳しいだけでなく、人が暮らす都市や鉄道での旅が好きな土木に関心をお持ちの方で、「土木」に対する期待も大きいものでした。現在、土木学会の論説委員会のアドバイザーもされておりますが、「土木と市民をつなぐ」をメインテーマに掲げるCNCPとも、意見交換をさせて頂きたい方です。
「1.はじめに」でお話しされた2点が、「土木」への問題提起と期待です。
私たち(高齢者)が若かった1964年の東京オリンピックの頃は、高速道路・新幹線・高層ビル街など、先進国並の都市基盤ができるのをワクワク見ていましたが、2020年のオリンピックを前に、今の現役の若者達が期待することは異なるのでは?という問いかけです。最先端の施設のある都市を作るのではなく、人々にとって住み心地の良い都市をつくることではないかと。
「2.住み心地のいい都市を求めて」では、渋谷や丸の内の最近の再開発などに見られる問題点、「工業化・人口増・都市化」は1つの現象の3つの側面であること、人間の精神は都市において形成されることなど、「土木屋」は、普通考えないような視点に気づかされました。さらに「歴史の地層」という言葉で、先人たちが、何を考え何を想って都市を構造物をつくって来たか・・、建設時の人々の住まい方や都市のあり方を考えてみる大切さをお話しされました。
「3.グリーン・インフラへの共感」の「グリーンインフラ」とは、自然が持つ機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方で、海外では既に取組まれています。日本でも検討されつつあり、玉川上水の流れを復活させて日本橋川を浄化させようという案や、気仙沼の市民が「海と生きる」という選択をしたことなどが紹介されました。「土木」が、技術を駆使して困難な工事を実現させ、便利な施設や都市をつくるだけでなく、生物学・社会学・歴史学・政治学等との横断的な協働を考え、旧来型の「グレー・インフラ」技術を補完する新しい技術思想として期待されていました。
総合的な「知」としての「土木」=「Civil Engineering」は、心地よい都市の基盤を作る総合技術ですと・・