2020年06月01日

既に起こっている未来

シビルNPO連携プラットフォーム 理事
(株)熊谷組常務執行役員 国際本部長
山崎 晶
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4月に所属会社の国際部門の責任者に就任した。その矢先のコロナウイルスである。渡航者や帰国者の隔離措置、入国や渡航の制限や禁止措置、定期航空便の減少や就航中止、都市封鎖や国内便・国際便の発着禁止、日本の政府開発援助の窓口である国際協力機構の現地日本人職員の帰国、こうした状況が各国で起きている。我々の主な事業展開先であるアジア諸国、各国はどのようにコロナウイルスに適切に対処するのか、現地の医療事情の貧弱さをどのようにリスクヘッジするかなど、今後の避けて通れない様々な問題が懸念される。
国内でも緊急事態宣言が発令され、外出自粛が要請され、テレワークによる在宅勤務、訪問や出張禁止など、業務を取りまく状況が激変している。在宅勤務実施のため各人の業務内容や役割を確認したら、特にそうしたものは決めていなかったなどの笑えない話も聞く。往来でのコミュニュケーションが取れなくなり、ウエッブ会議などが日常化して、食べず嫌いのICT技術も使ってみると中々のものであることにも気づかされている。今まで当たり前だと思っていた仕事やそのやり方も見直すべき機会と感じる。
日常の生活も大きく変わった。飲み会が減り血液検査の結果が劇的に向上した、GWに家族の元に帰れず単身赴任先で引きこもっている、など些細なこともある。しかし、今まで同様に皆で豊かさを求めて、与えられた仕事を良かれと思ってこなし、やりがいと給料を得て、衣食住や旅行などを楽しむ生活を満喫する、こうした日常のあり方を再考する人もいるのではないだろうか。生きるとはなにか、繁栄とはなにか、幸福とはなにか、そして仕事とはなにか・・、にまで繋がっていく問いのようにも感じる。
「苦境にあっても、天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていく事が、これからのわたくしたちの使命です」、これは東日本大震災直後の被災地のある中学校の卒業式での卒業生代表の答辞だ。当時の状況は今の状況とは比べ物にならないくらい厳しいものであり、この言葉は今の我々に大きな勇気を与えると共に、与えられた状況で精一杯がんばれとの覚悟を要求してくる。
経営学者Druckerは「既に起こっている未来を見過ごさず、その兆候を仕事や組織に取り込め、それが指導者の役割だ」と言っている。これに従うと、我々の営為や仕事でも、今回のリスクを放置して結果の悪さをコロナウイルスに転嫁し責任逃れをするのではなく、リスクをチャンスと捉えて、新しい取組みを構築する必要があると感じる。しかしながら、自分の経験や実力不足のために、中々具体的な考えや取り組みに結び付いていないもどかしさを感じる。
コロナがある程度収束したら、CNCPの先輩諸氏とこうしたことを様々意見交換して、ご指導を頂きたいと考えている。

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第5回宮崎県延岡市の「五ヶ瀬川の畳堤(たたみてい)」

五ヶ瀬川の畳堤を守る会 会長
木原 万里子
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宮崎県延岡市は宮崎県の北部に位置し、西に高千穂渓谷、東に日向灘に囲まれ、旭化成を中心に発展した人口12万人の地方都市です。
水郷延岡と称されるように、市内には五ヶ瀬川、大瀬川、祝子川、北川と大きな川が4つあり、そのうち畳堤のある五ヶ瀬川の源流は宮崎県と熊本県の県境にそびえる向坂山です。この川は延岡市内に入ると分流して五ヶ瀬川と大瀬川となり、市街地を貫流した後、河口近くで再び合流します。
この2つの川に挟まれた中州のほぼ中央、小高い山に最初の城主「高橋元種」が城を築き、政治、経済、文化が発達してきました。延岡の町は川によって造られた、といわれる所以です。
しかし、ひとたび豪雨が降ると、4つの川の水が一気に河口に流れ込みます。河口が小さいため、流水が膨れ上がり、水位が増し市街地は幾度も浸水被害を受けてきました。
五ヶ瀬川の「畳堤」は浸水被害から市街地を守るために造られた施設です。高さ60cmの橋の高欄に似たコンクリート製の枠が堤防上に連なり、上から見ると幅7cmの隙間が空けてあります。この隙間に畳がすっぽりと入ります。台風などで川の水が堤防を越える前に、畳を立てて洪水を防ぐ目的で造られました。ただし、戦災により街は焦土化し資料が残っておりません。
現在「畳堤」は、五ヶ瀬川沿いに、延べ980mが残っています。

昔は大瀬川沿いにも設置されており、総延長は2000mで、畳をはめ込むと約1000枚の畳が必要だったと言われています。

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全国的には、岐阜県岐阜市の長良川と兵庫県たつの市の揖保川にも畳堤があります。
長良川が昭和11年、揖保川が昭和25年に施工されました。五ヶ瀬川の畳堤は大正末期から昭和初期に造られたことが分かっており、日本最初に建造された畳堤と推定されています。

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当時の一般家庭では江戸間(長さ176cm幅88cm)の畳が使用されており、川岸の住民が自分の家の畳を持ち出し畳堤に畳を差し込み越水を防いだと伝えられています。畳は一度水を含むと乾いても使用できなくなってしまいます。川岸の住民が自分を犠牲にして街の人々を守ろうとした地域愛や皆で助け合う心が伝わってきます。これこそが防災の心です。
私たちは「畳堤」を地域防災のシンボルとして守り、保存し、洪水の被害から街を守ろうとした昔の人々の知恵や工夫を見直し、畳堤に込められた「自助・共助」の精神を広く伝えたいと平成13年に市民グループ「五ヶ瀬川の畳堤を守る会」を設立しました。依来、様々な活動を行っていますが、その内容の一部をご紹介いたします。
畳堤の自助・共助の精神を未来につなぎ、地域防災のシンボルとして守り、保存する活動として、毎年市主催の「防災フェスタ」に参加し子どもたちに紙芝居やぬり絵等で先人の思いを伝えています。
定期的に畳堤の清掃活動を行い、日常的に見学、触れられる環境づくりを行っています。
また先年、国交省の事業で畳堤のある堤防が補強拡幅され、非常時には防災道路、普段は畳堤散策路として利用できるようになりました。そこで今回、初の「水辺の青空美術館」を開催することができました。

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さらに、100年先の後世に「畳堤」の教えを伝えるために、等身大の石像を作って設置しました。

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様々な活動に対し下記のとおり表彰を受けております。
〇平成22年河川功労者表彰。
〇平成26年水防功労者国土交通大臣賞
〇平成27年土木学会選奨土木遺産認定

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水辺の青空美術館は、今年も11月1日〜12月20日50日間、実施する予定です。
ご覧いただければ幸いです。
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土木と市民社会をつなぐ事業研究会報告

第5回研究会において第6回研究会からはブレーンストーミングの結果を受けて「インフラメンテ」,「災害対応」,「地球環境・エネルギー問題・廃棄物対応」「中央と地方との格差対応」,「国や地域の将来ビジョン」を社会的課題として毎研究会で一つずつ取り上げてこれらの課題をCSV注釈)の視点で探って行くこととしましたCNCP通信(Vol70)で報告した(その1)に引き続き報告(その2)では第6回研究会において取り上げた課題は「インフラメンテ」の報告です。事前にメンバーから提出頂いたメモは下記の12件でした。

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提出されたメモの分析・評価を行った結果、下記の5つのプロットモデルに整理されました。

事業モデルⒶ;インフラ診断のプラットフォーム事業
事業モデルⒷ;インフラメンテの包括民営化事業
事業モデルⒸ;インフラメンテの協働推進事業
事業モデルⒹ;公共施設・空き家等の利活用活性化事業
事業モデルⒺ;流域圏のグリーンインフラ・メンテ事業
本来ならばここでⒶ〜Ⓔの5つのプロットモデルについてそれぞれ更に具体の事業としての組み立ての検討に入るべきところだとは思いますがここで一旦その作業は留めておいて次の課題の検討に入ります。そして前述した5つの全ての課題が一巡した段階で、更に各課題に対する事業化への取り組みを研究します。次回の第7回研究会のテーマは「防災対応への貢献」とします。
なお、CSVの視点とは@CSV活動領域 A社会的価値提案モデル B収益モデル C取り組みの連携・協働の4つの切り口です。


注釈:共通価値の創造(CSV)とは社会的課題を工夫のある事業で解決を図ると共に合わせて企業価値の向上を図る事業を称します。

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