2020年09月01日
心豊かに生きるための社会基盤づくりに思う
東日本大震災から2年が経過した2013年、日本学術会議で科学・夢ロードマップ作成の話が持ち上がった。託されたテーマは土木工学・建築学分野の科学・夢ロードマップの作成であった。日本列島が地震の活動期に入り、エネルギー供給の構造が変化し、高齢化が進み人口が減少するなかで、持続可能で安全・安心な社会を実現するためには、土木工学・建築学分野が、過去を見直し、現在を見つめ、未来を見据えて、科学・技術を一層向上させていくことが課題であるとの認識が背景にあった。
まとめ役として、土木工学・建築学分野のキーワードを「持続可能で豊かな社会の構築」を中心に議論を進めようと考え、土木工学と建築学に関係する学会の先生方にメンバーに入っていただき、議論を開始した。私の思惑は大きく外れ、各学会の先生方からは、「豊かな社会」ではなく「心豊かな社会」の構築が重要であるとの指摘を受けた。「持続可能で豊かな社会」を中心に持ってきたかった私は、各学会の理事会にまで出席して、「心豊かな社会」でなく「豊かな社会」の採用をお願いした。結果として、土木工学・建築学分野の科学・夢ロードマップの中央には「持続可能で豊かな社会」を持ってくることができた。その一方で、委員の先生方の意見を尊重して、説明文には「人口が減少し高齢化が進むなかで、健やかで心豊かに生きるための住宅・社会基盤づくりに取り組む。」として、心の文字を入れさせていただいた。
その後も「心豊かな社会」という言葉が脳裏から離れなかった。そのような中、コンパッションという言葉が目に飛び込んできた。「共にいる力」をコンパッションといい、「立ち直る力」、「やり抜く力」に関連し、利他性・共感・誠実・敬意・関与が基本概念とのことである。脳神経科学では、認知的視野、思考力、免疫力、レジリエンスなどへの効果が検証されているという。免疫力とレジリエンスのキーワードに魅せられた。土木のイメージに合うような気がしている。
新型コロナウイルスの感染症と自然災害の複合災害のリスクに備えなければならない時代を迎えた我々には、多様な生き方を視野に入れた社会基盤づくりとともに、コンパッションでいうところの「共にいる力」、「立ち直る力」、「やり抜く力」が不可欠であるように思う。「心豊かな社会」とはどのようなものであるのか、もう少し議論しておくべきであったと反省している。
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| 災害、危機管理等
地域の液状化に備える
はじめに
2011年3月11日東日本大震災が発生、私が所属するNPO法人シビルまちづくりステーション(CMS)では発生後すぐに被災地救済の動きとして救援物資を集め、現地に乗り込みました。合わせて、被害踏査も行いました。その中で身近な所で発生した災害として液状化被害に着目し、浦安、船橋をはじめ内陸も含め被災地での踏査を行い、組織内に「液状化対策プロジェクト」を立ち上げることにしました。
東日本大震災における液状化被害、船橋市の液状化
東日本大震災は広範な地域に津波被害もたらしましたが、そのなかで液状化が被害を一層大きくしていることが分かりました。また液状化被害は、利根川流域、東京湾岸エリヤの海面埋立て地域や内陸部地域における干拓や沼の埋立地などに広がっています。

地元船橋でも、市の全面積の85%が被害を受けた浦安市に比べると知られていませんが被害は大きく、その復旧・復興が求められていました。当NPO・CMSでは船橋市市民公益公募型支援事業の指定を受けて、液状化に関する総合的なパンフレットを作成したり、フォーラムやセミナーなど一連の催しを開催して、広く市民に地震・液状化の被害に対する情報・知見を提供し、災害に備える活動をしました。そしてこのような結果を踏まえ、実態調査やハザードマップの検証を行うとともに、再液状化も含め今後の対策を検討・提案しました。
船橋市の被害実態調査とハザードマップの検証
船橋市の被害実態調査として家屋の被災状況、道路・上下水道・ガスなどのライフラインの被災状況、それに対する行政の対応等を調べました。この結果を地図上に表わし、過去の地形、地盤、現在のハザードマップなどとの関連などを見ることにより、新たにいろいろなことが見えて来ました。

液状化の被災はハザードマップでの液状化危険性の高い区域で数多く発生していますが、内陸部においても液状化危険性が「ない」(図−1の白色部)とされる区域でも、液状化が発生している箇所がかなり認められています。
図-1は、液状化ハザードマップに家屋等の被害箇所を重ねたものに、さらに旧地形を重ねたものです。旧地形の低湿地部を着色(ピンク)しましたが、この図から、液状化危険性の「ない」箇所の多くが旧地形の低湿地部に相当することが判明しました。このことから、液状化危険性の評価は旧地形の低湿地部を考慮するのが良いと考えられます。

おわりに
行液状化の問題は重要であるにもかかわらず、当時はまだ認識が浅く、行政は殆ど対応が出来ておらず、市民にいたっては被災者はどうしていいか分からない状態でした。 市民は、行政は、NPOはどうすればいいのか、現在も各主体間の情報共有、協力関係、各種問題の課題解決が求められています。
資料
・地震による液状化に備えよう ―液状化についての知識を高めよう― 平成25年3月発行
・液状化対策へのエントランス ―「地震防災フォーラム・セミナー」より― 平成26年3月発行
・実態調査から見える被害状況 ―船橋の液状化被害はこうだった― 平成27年3月発行
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| 教育研修、広報等
市民参画によるインフラメンテナンスの前進に向けて
市民参画フォーラム・事例WG 駒田 智久
インフラメンテナンス国民会議・市民参画フォーラムの3つのWGのうちの市民協働調査・分析WG (略称;事例WG) において実施した市民参画事例の収集と分析について記す。
〇事例収集の考え方と方法
・収集対象;「インフラ施設」の「維持管理」に係る活動を対象とした。「維持管理」としては、直接的には、点検・補修等の他、管理運営や維持更新計画等も含め、間接的には、維持管理に係わる教育・研修、市民啓発、技術支援、社会的発信等も含めるものとした。インフラメンテナンスは、最終的には「(施設の)点検・補修」という実践行為に至るが、市民参画の観点からは、対象範囲を拡げて考えることが重要であるとしている。なお、「市民参画」の「市民」には、団体・個人を問わず、多様なものが含まれると考えている。
・収集内容;必須事項として〔実施場所/市民活動の主体/活動の概略内容〕、また追加事項として〔協働行政部署/実施時期・期間/協働の経緯/協働の種類(領域と役割)/協働事業の段階/費用負担の具体/コーディネーター〕とした。
・収集方法;自主的な収集と、土木学会アンケート調査結果の利用の2つの方法に依った。前者は、主として市民参画フォーラム、特に事例WGのメンバーに情報提供を求めた。主としてマークした情報は、国民会議インフラメンテ大賞等の受賞、土木学会表彰(市民普請関係)などであり、一般メディアも含めた。一方で、土木学会シビルNPO推進小委員会は、各地域の市民協働の活動の中で、シビルNPOが有効に活かされることを願って、地方自治体、シビルNPO及び大学・高専を対象に、市民協働に関するアンケート調査を平成29年度に実施しており、その成果を利用させて頂くこととした。その内、地方自治体回答の438件(自治体数としては258件)を対象とした。
〇収集結果
対象施設と活動分野ごとに収集結果を表−1に示す。学会アンケートのうち、何らかの形でインフラメンテナンスに係る件数は全173件であったが、環境美化・清掃のみの活動も少なくなく、それらは一応除くこととし、その結果が78件である。そのうち整理対象としたのが17件、自主収集36件と併せて全53件となった。
・水・河川系;市民が係りやすい河川分野以外に、湖沼、水路やダム分野でも事例が挙がった。河川分野では実際の維持補修も実践している事例があるのは注目されよう。

・道路系;道路分野では点検・情報が半数以上となっているが、一般維持管理や除雪、更には道路整備が挙がっている。橋梁分野でも、高欄の塗装とは言え、実際の補修作業が含まれている。
・地域・まちづくり系;公園や公共施設もここに含めた。公園では市民が参加しやすい維持管理分野が多くを占める。公共施設関係は1例である。まち・地域関係ではまちづくり分野が多く、他の計画対応や指針づくり、防災関係も数は少ないが挙がっている。
〇横断的考察
・活動主体;参画する「市民」の分類と事例を表−2に示す。活動団体にも種々あることが分る。団体の種別で活動の分野は大きく変わることはないとみられる。特に道路を対象にした教育機関の関与が注目されよう。市民・事業者については特定の認定等を受ける場合や、何の資格も無くて登録するだけで参加できるものもある。地域住民の事例として単なる通報ではなく、福島県天栄村や南会津町のように一定の力が必要なもの(道路等の補修作業)もあり、注目される。
・学の関与について
事例には大学・高専および工業高校が専門的知識をもって参加・関与しているものもある。表−2のうち、福島県南会津町の橋梁に係る事例については「ふくしまインフラ長寿命化研究会」が関与している。同会の会長の日本大学工学部土木工学科の岩城一郎教授の主導のもと、橋に限定されず、道路も含んで、住民と学生の協働により多彩な活動を展開している。長崎大学の道守養成ユニットや、岐阜大学における「社会基盤メンテナンスエキスパート(ME)養成講座」も同様な事例と考えられる。継続性に心配がある市民団体に比し、大学等の場合はその懸念が小さく、活動の継続性を考える上では、学の関与は大きな意味を持つといえよう。

・背景としての行政側の制度・事業
団体、個別の市民・事業者を問わず、活動を継続するうえで、重要であるのは管理者の支援である。表−3はその支援の内容ごとに制度的な事例を示す。一般市民の参画を得るためには、前提となるサービス提供が当然であり、DやEの支援は必須と言えるが、団体として期待するのはA〜Cの即物的な支援であろう。図−1はAの国交省のプログラムのスキームである。
ここで注目されるのはBであるが、土木学会でいう「市民普請」を促進するものと言える。このような取組みは農水省関係に多いと見られる(写真)。
なお、京都市では、「公共土木施設の維持管理に係る市民協働指針 みんなで守る“道・川・みどり”京のまち」を平成29年に策定している。
〇今後に向けて
事例WGが目指す姿は「インフラメンテナンスの事例や社会実験から新しい効率的な仕組みがつくられ、全国の自治体で採用され効果を上げている」である。事例収集はその第一歩的なものであるといえるが、先ずは、このように様々な市民参画の展開事例が有ることの社会的な発信が考えられる。
また、今回の分析は、多く、先に示した「必須事項」に基づくものである。「追加事項」については、収集方法の限界から一部の事例でしか把握できなかった。今後、幾つかの事例に絞り込んで、その活動組織および関係自治体にコンタクトして、核心的な情報の獲得を図り、現地での調査も行った上、さらにそれらの自治体や団体との協働についても、その可能性を検討する考えである。
なお、土木学会では「市民団体との協働活動促進のための方策検討」会議がスタートしている。また、このような動きを学問の対象とした研究もある。それらの動きとの関連も見据えた今後の活動とする必要が有ろう。



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| インフラメンテナンス