ヴィクトール・フランクル(1905-1997)は,オーストリア生まれの精神科医・心理学者です.ユダヤ人として第二次世界大戦中にナチスによりアウシュビッツ強制収容所に収容され,奇跡的に生存・解放され,父母や妻を収容所で亡くしました.収容所での体験をもとに執筆された「夜と霧」が有名です.本稿では,フランクルが提唱した人間性心理学の概要を,山田邦男訳の「意味への意思」(春秋社, 2002.7.)その他の著作を参考に紹介するとともに,この心理学の観点から態度決定のあり方を考察します.
フランクルは,右図に示すように,人生の意味は,「意味への意思」を持って,態度・創造・体験の価値を生むことにあり,特に自己超越的に態度価値を実現することにより,自己実現あるいは幸福が結果として得られるとしました.自己超越とは自分自身の欲求と関わらないことを意味しており,利他性と通じる概念です.人間以外の動物が利用価値をもつのに対して,人間に利用価値を求めるべきではないとし,良心という意味器官を用いて,自律的に束縛されず行動を起こすことができる人間の人格的価値の重要性を説きました.人間は「何かからの自由」と「何かへの自由」という二つの自由性をもっており,前者は束縛からの自由を,後者は行動への自由を意味しています.特に後者の自由は良心に基づいて行動することの自由性であり,これこそが人間の人間たるゆえんであるとされています.自由性を有する行動により,人間は自分の未来の行動を選択することができます.
また,人生の意味は,人により,日により,時間によって異なってくるものであり,重要なことは人生一般の意味ではなく,各人の人生の個々の瞬間における態度決定などによる意味であるとされています.このことは,ある特定の人間の言動が社会を危険に陥れたり,逆に救ったりすることになるような状況での行動の選択では重要です.

このフランクルによる人間性心理学から何を学ぶかもまた人それぞれだと思います.私たち日本人は,狭い組織の中で「個人」を主張せず,周囲を気にしながら,当たり障りのない言動を選択する民族と言われます. 何らかの権力や権威におもねって,自らの主張を述べることを躊躇っていないでしょうか.私自身の人生はそのようなことの連続であったように思います.フランクルは,「行動を起こした事実は過去の事柄になることによって固定化され,永遠に生きる」と述べています.やるべき時に行動を起こさなかったこともまた,過去に固定化され消せないことを意識することが自己変革や社会変革の第一歩であるように思います. 皆川 勝(minatororo@gmail.com)
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