1.「地域の意見を反映した河川整備推進」のはじまり
1997年(平成9年)に河川法改正があり、日本の河川行政は大きく変わった。河川を治める理由に「治水・利水」に加え、「環境」が入ったのである。同時に、「地域の意見を反映した河川整備を推進」との一文が加わり、市民参画が位置づけられた。
実は、これに先駆けて荒川下流河川事務所では、おおむね50年先を想定して荒川下流全体のゾーニングを考える「荒川将来像計画」全体構想書(案)と沿川2市7区の「荒川将来像計画地区計画書」(案)9冊を作っていた。そしてこの案を沿川2市7区の本庁舎のみならず、すべての出張所で開示して意見募集を行った。完成した将来像計画には、171件集まった意見と、これに対する回答または見解が載せられていた。まだ、パブリックコメントも始まっていない時代にである。沿川の市民団体は横に連携し、「市民版荒川将来像計画」を作成して公表したり、官民共催のシンポジウムを開いたりして協力した。さらに、「荒川市民会議」が2市7区それぞれに設置され、国交省荒川下流河川事務所・自治体土木部・公募した市民・利用団体等が一堂に会して、どんな荒川にしたいのかを話し合い、整備していった。沿川各市区の市民団体は、積極的に参加して、横の連絡を取り合い、計画が絵に描いた餅にならないよう努力した。(市民会議は2015年まで続き、現在は開催されていない)このような活動が評価され、地域の意見を反映した河川整備の推進という法改正につながったのである。

さらに荒川では、多様な人々が集う荒川における合意形成手法として任意団体「あらかわ学会」の創設が考えだされ、1996年10月、これに賛同する人々によって設立総会が開催された(2003年にNPO法人化)。私は、定款作りから関わり現在まで副理事長兼事務局長を務めている。官も民も大人も子どもも同じ目線で荒川(上下流)について平等に議論が出来る場が出来たのである。年次大会では、荒川に関する調査・研究・体験活動・提言などが発表され、今年で22回目を数えた。
2.河川協力団体制度の成立
(1)設立の経緯
全国の河川では、様々な市民団体が活発な活動を行っていた。これに呼応するように、2013年(平成25年)6月、水防法及び河川法の一部が改正され『河川協力団体制度』が創設された。
設立の経緯を見てみると、2013年(H25年)4月の社会資本整備審議会の「安全を持続的に確保するための今後の河川管理のあり方について」という答申において、以下のような審議がなされたことがわかる。2000 年(H12 年12月)河川審議会答申「河川における市民団体等との連携方策のあり方について」で指摘されていた課題が、現在もほとんど解決されておらず「市民団体等について、その持続的な活動を促進するために必要な河川の管理上の位置づけがなされていない」為、具体的な取り組みとして「河川環境等、河川の管理における役割を期待されている地域の市民団体等について、地域の資源として河川を利活用するニーズの拡大も踏まえて担い手としての位置付けを明確にする制度整備を行うべきである」との答申が提出され、河川協力団体制度が創設された。
(2)河川協力団体制度
河川の維持、河川環境の保全などの河川の管理につながる活動を自発的に行っている民間団体等を『河川協力団体』として法律上位置付け、河川管理者と河川協力団体が充実したコミュニケーションを図り、互いの信頼関係を構築することで、河川管理のパートナーとしての活動を促進し、地域の実情に応じた河川管理の充実を図ることを目的として制度化されました。
河川協力団体の活動
1.河川管理者に協力して、河川工事または河川の維持をおこなう
2.河川の管理に関する情報又は資料の収集及び提供
3.河川の管理に関する調査研究
4.河川の管理に関する知識の普及及び啓発
※河川協力団体は、河川管理者が特に必要があると認めるときは、河川法99条により、
河川の管理に属する事項の委託を受けることが出来ます。
※国土交通省HPより http://www.mlit.go.jp/river/kankyo/rcg/seika.html
運用に関しては、全国の地方整備局又は河川事務所の姿勢によってかなり異なり、まだまだ設立の趣旨が反映されているとは言えないことが多い。しかし、その川に長く関わり、様々な川及び人々の関わりの歴史を知っている市民団体こそ、その市民科学を活かして、河川管理のパートナーとして活躍していきたい。そこで、市民団体が連携して「河川協力団体全国協議会」を作って問題の解決に向かっているところである。
<参考資料> CNCP通信Vol 55「荒川下流における市民の活動」
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