2019年07月09日

歴史を振り返り歴史に学ぶ

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シビルNPO連携プラットフォーム
代表理事 山本 卓朗


平成から令和へ移行するときに、“平成時代30年を振り返る”特集などが多く組まれ、しばしば執筆依頼やインタビューに応ずる機会があった。こういう企画では、大方の人が30年を振り返るとともに、これからの30年を展望してみたいと考える。2014年に土木学会が100周年を迎えた時、記念事業の一環として「社会と土木の100年ビジョン」を策定するという壮大な企画を実施した。そのためにはまず、100年を振り返り、さまざまな観点からこれを分析し理解することから始めることになる。明治150年の折には、当プラットフォーム通信でも、1年間のシリーズとして明治150年への思いを何人かの方に執筆頂いた。長年携わってきた仕事と関連づけて書かれる方が多く、思いのほか意義深いシリーズとなった。

昨年から中村英夫先生が主宰する「戦後70年のインフラ整備」連続講演会企画がスタートし、その第6回で「首都圏国鉄5方面作戦」を取り上げることとなり、数か月にわたり歴史をひも解く作業に追われた。この作業をJRグループの若手の皆さんにやってもらい、資料をスライドの形で収集し、ワークショップ形式で議論しながら、取捨選択して講演パワーポイントに仕立て上げることにした。そして第2次世界大戦後の輸送混乱期から高度成長期にいたる5方面作戦の骨格を理解し、そのDNAが現在の輸送改善に継承されてきた姿を検証した。この機会にまとめられた資料やスライドは、今後も若手の皆さんが“歴史に学ぶ”貴重なツールになると思う。

さて新たなプロジェクトを構想するときに、背景としてのその地域の歴史や経緯を紐解くことは大変重要である。未来を構想するヒントが隠されているし、さりげなく残されている古い構造物の価値を再発見して、遺産として有効に活用しようというきっかけにもなる。私の鉄道生活は、高度成長期での首都圏通勤輸送対策に明け暮れていたが、都心のプロジェクトは一朝一夕になるものではなく、構想から実現まで数十年を要するものも少なくない。今、オリンピックを目標に急ピッチで進められているJR東日本の渋谷駅改良工事、山手線ホームと埼京線ホームを並べて2面4線にする難工事だが、その構想は1960年代から始まっていたもので、半世紀かかって実現にこぎつけた代物である。これをみても少なくとも30年くらいの経緯は調べる必要があると思う。

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写真 渋谷駅改良工事

国鉄で仕事をしている頃は、何となく国家意識があって、国全体の鉄道輸送をどうするか考える習慣が身についていた。始めから民間企業であるJRに勤めれば、当然のことながらプロジェクトを考える時も、企業の論理が優先するのはやむを得ないことである。しかし長い国鉄の歴史からみるとJRはたかだか30年の歴史しかないともいえるわけで、多くの国民がJRを“一民鉄”とは見ていないのも事実である。そこで、ここ10年ほど若手の調査計画技術者とワークショップ研修を積み重ねてきたが、その中で二つの点をアドバイスしている。
〇 一つは、鉄道を考える前に交通を、交通を考える前にまち(街、都市)を考えようと。
〇 二つは、例えばある駅改良ならば、その地域全体の歴史と現況そして駅の歴史と改良の経緯を整理しようと。
〇 最後は余談である。東京駅などは、まさに歴史とエピソードの宝庫であろう。
大正時代に建設された赤レンガの東京駅本屋は、終戦直前の空襲で焼け落ち、3階部分を除いた仮復旧の姿で半世紀を過ごすこととなった。復旧の際に
連合軍総司令部(GHQ: General Headquarter)鉄道輸送事務所(RTO:
Railway Transportation Office)の特別待合室が設けられたが、そこに建築家の中村順平ほかの方々からなる大きな壁画・レリーフが飾られた。この歴史的な経緯は文献でご覧いただくとして、進駐軍の撤退後の部屋は事務室などへ転用されてきたようである。1970年代の半ばになり、私が東京駅担当の工事課長時代に取り組んだ改良の際、取りあえずレリーフを在姿のまま保存しておこうと仮壁で覆って保護し、以降、赤レンガ復原工事が始まるまで忘れられた存在となった。そして幻の壁画発見!!という新聞報道にびっくりしたが、大げさに言えばRTOレリーフが“文化遺産”になった瞬間であった。現在は東京駅京葉線地下駅のコンコース階に展示され、通勤客の目を楽しませているのは嬉しいことである。

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写真 RTO待合室  旧国鉄資料

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写真 京葉線地下コンコース
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 人文等
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