2019年07月09日

第15回 「取建/取立」ということば

幕末から明治にかけて漢語由来の「土木」「建築」「建設」が使われるようになる一方、「建つ/建て」「立つ/立て」に語勢を強める接頭語「取り」を付けた和語の「取建」「取立」は使われなくなっていった。江戸から明治にかけての出来事を編年体でまとめた『武江年表続編』(斎藤月岑、1882年)の明治三年(1870年)に「正月、神田玉川両上水修復補益の為、小石川御門外神田川の端へ、土木司より水車御取建に成り、米穀舂立(つきたて)始まる。」とある。

古くは、『吾妻鏡』(1300年頃)の安貞二年(1228年)十月十八日「昨日午尅。筥根社壇燒亡之由。馳參申之。〔中略〕依風顛倒屋々被取立之條不可有其憚云々。」(昨日の昼頃に、箱根神社の神殿や仏閣が焼けたと走って来て報告しました。〔中略〕風によって倒壊した建物を修理するのは、何も懸念することは無いとの事です。)とあり、『徒然草』(吉田兼好、1330年頃)第二十五段に「金堂はその後たふれ伏したるままにて、取りたつるわざもなし。」とある。

イエズス会宣教師らが編纂した『日葡辞書』(1603年)では、「建立」「造営」「普請」「作事」と一緒に「Toritate, tçuru, eta. トリタテ,ツル,テタ(取り立て,つる,てた)建築する,すなわち,家を建てる.¶また,人を,その元の本来の地位に再びつけてやる.」とある。「土木」は採録されていない。
現在の「取立」は、日葡辞書の後者の「人を登用する」のほか、借金などを「強制的に徴収する」、作物などを「取って間がないこと」の意味になっている。
〈参考〉吾妻鏡入門(歴散加藤塾サイト)、邦訳日葡辞書(1980、岩波書店)
(土木学会土木広報センター次長 小松 淳)
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