2020年04月01日

第23 回(最終回) 翻訳された方丈記の「土木」

国語辞典には「しゅん-こう【竣工・竣功】」と併記されることが多い。
白川静『字通』(1996年、平凡社)に「竣」は字形が「立は一定の位置に人の立つ形で、儀礼を行うところをいう。その設営の成ることを竣といい、竣功という。」とあり、訓義は「おわる、できあがる。」である。
江戸時代の「できあがる」は「禁裏御造営出来」「小御所御庭出来」「御普請出来」「天守台御普請相済」「市谷御門出来御引渡」「石垣樋桝御修復出来」など「出来」を用いるものが多い。「竣工」は深川永寿山海福寺の天和三年(1683年)の鐘銘「重新造焉、及乎竣工、知事來乞銘」、「竣功」は市谷覺雲山浄榮寺の文化五年(1808年)の鐘銘「重建鐘樓、越三年、土木竣功」(鐘楼再建の三年にわたる工事ができあがり)にあるものの、それぞれ現存する用例は少ない。

明治二年刊行『布令必用新撰字引』(1869年、松田成己)に「竣功 シュンコウ テガラガデキアガル」とある。国立公文書館を検索すると「大日本史刑法志竣功」(明治四年)、「東京横浜間ノ鉄道竣功開業」(明治五年)、「新紙幣製造竣功(明治八年)」があり、「竣功」は書物、鉄道、紙幣など「事業」のできあがりを示していた。功を奏す「奏功」、功を成す「成功」と同様のことばである。その後、「新道竣工(明治十五年)」、「軌鐡敷設竣工(明治十五年)」と「竣工」が混在して使われるようになった。ここで「工事竣功」が6,691件に対して「工事竣工」は263件。「竣工」は「工事」の意味を含む「できあがる」である。
(土木学会土木広報センター次長 小松 淳)
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 人文等
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: