2020年07月01日

土木インタープリター

CNCP 常務理事 土木学会連携部門長
土木学会 教育企画・人材育成委員会 シビルNPO推進小委員会 委員長
メトロ設計梶@技術顧問
田中 努
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「土木学会連携部門」では、土木学会のシビルNPO推進小委員会と一体になって、「土木と市民社会をつなぐ」の具体化をめざし、フォーラムの設立準備と、Facebookで同様の活動をしている人たちとつながる試みをしています。今回は、この活動の1つ「土木インタープリター」について紹介します。
1.土木技術者とインタープリター                           
「土木インタープリター」は、辞書的には、「土木を市民に解説する人」という意味になります。@行政の技術者や建設コンサルタントが市民に事業の説明をしたり、A建設技術者が市民に工事現場を案内したりする場合、分かり易い言葉やツールを工夫した説明で、市民に理解してもらえる人です。
このような場面は、他にもあります。例えば、Bインフラツーリズム、C小中高大学生向けの出前講座・イベント、DNPO等市民団体の会合等で、インフラや防災・環境整備に関する問題を扱う場面、E自治体が行う市民協働事業など。
伝えたい内容は、その事業が如何に生活の快適さや経済効率や防災や環境に役立つのか、何故こういう考え・構造・施工・方法なるのか、如何に調査・研究を重ね工夫を凝らして難しいことを可能にしているかなど。土木の専門的な部分に踏み込んだ内容ですから、相手の市民の基礎知識や理解力や関心事を分かっていないと、伝わりません。
しかし、今は、それぞれの場面で、担当した土木技術者が、個々に自己流の工夫と努力で、上手くいったり行かなかったりでしょう。上手い説明ができ、優秀な「土木インタープリター」だなと思う人が居ますが、そうでない人もいます。

できる人とできない人、この差は何でしょう。何を学べば優秀な「土木インタープリター」になれるのでしょう。それを調査・検討しています。
2.インタープリターとその回り
「インタープリター」が行うことを「インタープリテーション」と言いますが、「総合技芸」であるとも言われます。自然科学や教育をはじめ、デザイン、アート、歴史、民族など、さまざまな分野に見られるそうです。さらにインタープリターの回りに、コミュニケーター、ファシリテーター、ガイドなど似たものがあります。何が同じで、何が違うのでしょう。少し紹介します。

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3.インタープリター                
日本で最も古く広く活動している「インタープリター」は、環境省系の、自然公園やミュージアムなどで行われている、参加者の楽しさや体験を重視した教育的なコミュニケートをする人たちのようです。
1980年代後半に日本のビジターセンターやネイチャーセンターを先駆的に運営していた人たちが創っていた「ネイチャーセンター研究会」が中心になり、環境教育に関する学会やフォーラムでインタープリテーションの研究集会の開催、ニュースレターの発行等をしていましたが、1994 年に「日本インタープリテーション協会」が作られ、インタープリター・トレーニング・セミナー(自然教育研究センターと共同)の開催やインタープリテーションに関する種々のワークショップを開催しています。

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4.科学技術インタープリター                              
文科省系で、東京大学と北海道大学と早稲田大学が協働で、2005〜2007年に科学技術振興調整費を得た活動が続いています。
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東京大学の「科学技術インタープリター養成プログラム」は、在学中の主に大学院生を対象とした毎年10名前後の少数精鋭の副専攻プログラムです。科学コミュニケーションの最重要課題は、難しい専門知識を分かりやすく、かつ親しみやすく伝える方法論のみでなく、「社会の中に科学がある」という共通認識のもとで広い視野で科学技術を捉え、問題点を掘り下げて探ることのできる人材の育成を目標としているとのことです。

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北海道大学の「科学技術コミュニケーター養成プログラム」は、科学技術の専門家と一般市民との間で、科学技術をめぐる社会的諸課題について双方向的なコミュニケーションを確立する人材を養成するものです。
科学技術コミュニケーターが修得すべき理論とスキルについて体系的にカリキュラムが組まれ、実習や演習を通して、サイエンスライティングの基礎、映像メディアの作り方、サイエンスイベントの実施など実践的なスキルも学ぶことになっています。

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早稲田大学の「ジャーナリズムコース」は、自立的な批判性を持つ科学ジャーナリストの育成を目指して、2005年度に始まりました。2010年度に日本初のジャーナリズム大学院に統合され、「科学技術ジャーナリズム・プログラム」という専門認定プログラムとして継続しています。
講義や演習では批判的思考力を養うことを重視して方法論科目を充実させており、ジャーナリズムやメディアの構造・歴史・理論などを学び、他学部の協力も得て政治・国際・経済・社会・文化・科学技術の各分野の専門知に深く根ざした講義を展開しています。

5.海洋インタープリター
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国際海洋自然観察員協会という組織が、海洋の自然体験活動を通じて、広く自然を大切にするリーダーを養成し、プロとして社会的に自立できる、海洋の自然をガイドしエコツアーを行う人たちを育てようと、2006年から「インタープリター入門講座」を開催しています。

6.ファシリテーター
ファシリテーターとは、ファシリテーションの役割を担う人で、会議で言えば進行役です。ファシリテーションとは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすることです。集団による問題解決、アイデア創造、教育、学習等、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味しています。
これは、我々CNCPでも2018年から養成講座を開講し、初級・中級・上級・コーディネーターと充実したカリキュラムを用意していますね。
ファシリテーションの歴史は、マネジメントと同様、世界中で発生したと私は思いますが、「日本ファシリテーション協会(FAJ)」のHPによると、アメリカで、1960年代の体験学習を通じてメンバーやグループの成長を働きかける流れ、同時期に始まったコミュニティの問題を話し合う技法として体系化された流れ、また1970年代の会議を効率的に進める方法として開発された流れ、さらに日本では「世田谷まちづくり活動」のように独自に進化した流れがあるとされます。

7.ガイド
ガイドも、町や施設の歴史や特徴、見どころを来訪者に解説し、その情報を付加することにより、観光旅行をより面白く楽しくする役割で、「インタープリター」に通じるものがあります。
例えば「京都市ビジターズホスト」。これは,京都市・宇治市・大津市に関する奥深い知識と専門性を備えた通訳ガイドを育成し、通訳ガイドのスペシャリストとして活躍していただくことで、外国人観光客の京都市近郊への周遊や長期滞在の促進、外国人観光客の満足度の向上、旺盛な消費意欲の取込み強化を図るものです。
「インフラツーリズム」のガイドは、「土木インタープリター」に近い気がします。「インフラツーリズム」とは、橋・ダム・港などのインフラを地域固有の財産と位置づけて、観光を通じた地域振興に資するインフラ活用の取組です。一般の観光との違いは、建設中のダムや監査廊など、普段なかなか入る機会のない施設内部を公開・開放して、見て・聞いて・触って体感する「非日常」を楽しめるイベントです。国交省や自治体、インフラ事業者の他、民間旅行会社も企画し、人気があります。

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8.土木学会でも
土木学会では「土木偉人かるた」を作成し、販売しています。土木偉人を題材に、かるたの形式にした「土木史」の入門資料で、楽しく遊びながら、土木偉人が行ってきた功績と土木事業への熱い思いを知って貰おうという狙いです。学校での土木史教育の副読書として、また土木系サークルや家庭の教育ツールとして、土木系学科を専攻する学生・先生・土木偉人に関心がある方なら、誰でも楽しく学ぶことができそうです。

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また、土木学会では、「ポケドボ」カードゲームというのも作成し、販売しています。対戦相手と戦うのではなく、自分の「まち」のインフラを事前対策や応急復旧で災害から守るゲームです。簡単でかつ楽しみながら土木のことを知ってもらえるようなルールとゲームの流れになっていて、私の孫たちも面白がっていました。

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さらに土木学会では「実験で学ぶ 土砂災害」という本を出版しています。この本は「土砂災害の起こり方」や「土砂災害を防ぐ方法」を模型実験見せて学んでもらうようになっています。土砂災害が起きるメカニズム、被害予測と非難方法などを、専門的な知識を基に、小学生高学年・中学生にも理解しやすいように、イラストや模型を使ってわかりやすく説明しています。
これらも、土木技術者だけでなく、「土木インタープリター」が介在しないと、子供や市民に、土木の役割が面白く伝わらないでしょう。

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posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 人文等
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