2018年06月01日

〜シドニーハーバートンネル〜

〜日本企業として巨大PFI(BOT)事業に参加して30年〜

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CNCPサポーター、SLIMジャパン国際会員
熊谷オーストラリア所長 橋爪 伸浩


今回のCNCP・SLIM合同メンバーによるシドニー視察旅行も4日目の11月13日は、早朝からシドニー近郊のPFI高速道路を車で視察した後、午前11時半にシドニーハーバートンネル(以下、SHT)事務所で、SHT事業体の総括責任者(GM)であるBob Allen(下記写真左奥)と面談、日本語のトンネルプレゼン用ビデオを視聴してから、トンネルの現状について質疑応答が行われた。その後、熊谷オーストラリア事務所で昼食懇談会が行われ、SHT建設当時有岡CNCP常任理事の右腕として働き、また後述のSHTの政府への返還に伴う諸課題の対応のために再び熊谷オーストラリアに戻ってきて頑張ってくれているNigel Bowraなども交えて、SHT運営の問題の他、昨今のオーストラリアの社会インフラ整備、PFI事業等に関して意見交換会とほぼ丸1日のSHTデイであった。なお、事務所前での集合写真の背景として写されているSHTロゴは30年を経て、絵葉書などにも使われている。
ここではその際に出た話題等を中心に、視察に立ち会ったものとしてその概要を報告しておきたい。

1.SHT事業の概要
SHTは、オーストラリア初の海底トンネルであり、シドニーのポートジャクソン湾を横断する全長2,280m(海底部960m)の4車線道路専用海底トンネルである。鉄筋コンクリート造の函体8函をつなぎあわせる沈埋工法によって、日本企業である株式会社熊谷組がPFI事業として現地建設会社と協同で建設、1992年8月に竣工、開通した。その後2003年10月に熊谷組が会社分割され、新設された日本企業であるニューリアルプロパティ株式会社(以下、NRP)が、SHTの施設整備及び維持管理、運営まで含めた事業展開をしている。交通体系としては、右写真にもあるようにシドニーハーバーブリッジ(本視察旅行記(5)で詳述)の交通緩和を目的とするバイパス(写真右側の黄色線)として、重要な役割を果たしている。

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2.維持管理・運営の仕組み
冒頭に記したBob Allenは、トンネル開通当初からトンネル事務所で働いており、最初はトンネルコントローラーとしてスタートし、やがてその維持管理・運営の総括責任者として活動し続けている。シドニーでは高速道路の区間ごとに正式名称がつけられているが、通称その区間を統括する人の名で呼ぶようで、SHTも「ボブトンネル」として知られているようだ。ちなみに私も2005年から取締役メンバーとして関与しているが、建設当時から関与している現地スタッフが多く、相手パートナー側には過去30年トンネルに関与しているJohn Favaloroと言う生き字引も居るので、まさにトンネル事業プロ集団といえる。最初のBOT事業であったので、例えば右写真の事故防止対策設備であるウォーターカーテン(緊急時、トンネル入り口に水の壁を作り、そこにレーザー光線でストップサインを照らすシステム。当たっても濡れるだけなので二次災害を防止出来る)設置等新しい技術を導入するのに必要な財源や大規模な設備投資には、1992年8月のトンネル開通当初から存在するトンネル維持管理積立預金(MSF:Maintenance Sinking Fund)が適用されてきた。25年間トンネル内事故ゼロの実績は大きい。

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3.5年後の返還に向けて課題対応
とくに午後のミーティングでは、‘SHT事業体が2022年8月の政府への返還に向けて今何を行っているのか’についての関心が強く、その現況について簡単に触れておきたい。SHTは100年のデザインライフと30年のコンセッション期間と言う契約であり、開通してから30年後の2022年8月に、「このトンネルのデザインライフは後70年大丈夫です」と政府に論理的に証明する必要がある。この様な状況下で2022年8月にスムーズな政府へのトンネル返還を行う為、すでに2010年代に入ってから、大手国際コンサルタント会社2社に長期トンネル維持管理プログラム(EAMP:Enhanced Asset Management Plan)作成の提案を依頼し、
(1) SHTは1987年6月に政府と締結した契約通りのスペックで建設されている
(2) このプログラム通り維持管理すれば、トンネルはデザインライフ通り存続出来る
といった第三者の専門家によるお墨付きを得ると共に、昨今のテロ対策、自然災害予防の為、政府がトンネルをアップグレードすることに対する幾つかのシナリオも、このプログラムの中で提案して貰うことになっている。当該業務を発注してから既に約5年経過したが、トンネル全部を写真に撮りコンピューターグラフィックで表面や修繕部分等がわかるマッピングは完成、現在修繕作業を行う度に写真等をアップデートしている。トンネルの構造上、耐久性の各レポートも完成、後は技術屋では無い行政担当者が読んでもわかり易い様にレポートを全てまとめる作業を行っている。レポート完成後は実際にプログラム通りに維持管理を行い、政府の担当者を招待して一緒に作業を行い、スムーズな政府へのトンネル返還を目指す方針である。
4.日本のPFI関連事業者の関心
今回の視察の様に年数回、日本から訪問者が絶えない(右写真は2006年北側国土交通省大臣の視察)。これもトンネル返還を間近に迎え、日本の社会インフラ整備業界が高い関心を示している証拠と考えられる。尚、現在政府はシドニーウェスタンハーバートンネル(第二のSHT)及びビーチリンクトンネル(シドニー北部沿岸へのバイパス)の新規工事入札募集を計画している。SHTの2022年8月以降のコンセッション契約も含めた大規模な事業計画になると予想され、今後政府機関や世界中のPFI事業会社、ゼネコン等から当社又はSHT事業体への問い合わせが更に増えると思われる。
私がシドニー大学留学中だった1980年代後半SHTが建設中で、それに興味を持ったのが機会となって当時の熊谷組有岡豪州副支店長に面接して頂いてから30年もたったが、今日本ではやっと愛知県道路公社の事業がコンセッション方式でPFI道路事業本格化の初弾と聞いて、彼我(日本とオーストラリア)の差を感じている。2022年8月にスムーズな政府へのトンネル返還に尽力したい。

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最近のPFI/PPPの動向について思うこと

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(特非)シビルNPO連携プラットフォームサポーター
京都大学防災研究所 大西 正光


1999年に、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律、いわゆるPFI(Private Finance Initiative)法が成立して、20年が経とうとしている。PFIは、民間事業者が設計から建設、維持管理まで一括して責任をもち受託する方式である。PFIでは提供すべきサービス水準が規定される。設計、建設や運営に係る意思決定は民間企業の裁量に任されるため、市場競争を通じて創意工夫のインセンティブを与え、従来型より効率的に公共サービスが提供できるとの期待がある。わが国におけるPFIという用語は、当初、英国で適用されていた類型が基本となっていたが、より民間の裁量を認めるそれ以外の類型が現れるようになり、PPP(Public Private Partnership)と呼ばれるようになっている。紙面の都合上、PFIとPPPの違いに関する詳細な説明は割愛し、混乱を招かない限り区別することなくPFI/PPPと称す。本稿では、わが国における昨今のPFI/PPPを巡る動きについて、筆者が思うところを整理しておきたい。
現在、わが国では平成25年から平成34年の間に、21兆円という事業規模目標が設定され、PFI/PPPの事業対象分野の拡大と普及が政府主導で進められている。事業規模の目標設定により、新たなPFI/PPP市場の模索し、民間企業の定着を狙っている。平成23年にはPFI法の改正によりコンセッション方式が法的に位置づけられ、仙台空港や新関空をはじめとして、特に空港分野での適用が進んでいる。内閣府では、毎年、PFI/PPP推進アクションプランを策定し、事業規模目標をクリアすべく、PFI/PPP導入のための施策を打ち出している。PFI法の施行により、さまざまな公共サービスの分野において、新たな官と民のインターフェイスの模索が行われてきたが、現在のPFI/PPP推進アクションプランを見ると、20年近く経った現在においても、一定の形が定着した段階には至っておらず、その模索が続いていると考えられる。わが国におけるPFI/PPP政策にかかる現在のフェーズが依然、定着モデル探求の模索的段階にあると考えれば、これまでに実施されてきたPFI/PPP事業を社会実験として捉え、経験をより良い定着モデルの探求に活かすための制度的仕組みが必要である。特に、PFI/PPPがあらゆる事業にとって望ましい方式であると断定できない限り、PFI/PPPと相性が良い事業分野とそうでない事業分野の見極めが重要であると考える。また、定着モデルの中には、どの事業分野にPFI/PPPを適用すべきかといったことだけではなく、事業分野ごとの技術的、社会環境的特性に応じた規制や契約も含む。
定着モデルの探求において、もう1つ重要なのがVFM (Value for Money) 評価である。VFMは、従来型で調達した場合に比べてPFI/PPPによる調達がどれだけ望ましいかを示す指標である。通常、提供されるサービス内容は同一として、PFI/PPPで実施した場合のライフサイクル費用と従来型で実施した場合のライフサイクル費用の差額が定量的なVFM指標として用いられる。国、自治体は、PFI/PPPの適用を検討する際に、事前にVFM評価を行うが、私の知る限り、その評価方法は必ずしも頑強性があるロジックに基づいているものではなく、アドホックな前提条件に依拠しているのが現状である。そのため、行政の担当者も、PFI/PPP適用のメリットを理解することが難しいのが現実である。その本質的問題は、上で指摘したことと同じく、事業の実施経験をこれから実施する事業に対して、フィードバックするための仕組みが欠如している点にあると考える。
筆者は、大学というところに身を置いていることもあり、これまで少なからず留学生とともに研究を行ってきた。これは個人的経験であるが、私のところにくる留学生のほとんどがPFI/PPPを研究テーマとしており、海外における現状に触れることも多い。海外では、特に途上国において、「財源がないからPPP*」との考え方が根深く存在している。しかし、行政がサービス対価を支払う場合、結局、税が財源であり、利用料を徴収しても、市民が負担を免れるわけではない。こうした政府にとって、「PPP=打ち出の小槌」という誤った理解に基づいて進められる事業では、政府が自らの支出を可能な限り小さくすることが目的となり、民に過剰なリスク負担を求める契約としているケースも少なくない。その結果、応札者が現れなかったり、結局、民間事業者がリスク負担に耐えられなくなったりすることも少なくない。また、英国では、PPP事業における長期にわたるサービス対価支払い分を政府会計の債務からオフバランスすることにより、隠れ借金が作られてきたとの批判が渦巻いたことがあった。こうした現状を鑑みると、PPPは財源の問題ではなく、あくまでも民間の裁量を拡大と競争的インセンティブを通じた効率化が本質的価値であるとの理解にたどり着く。
「なぜPFI/PPPなのか?」はPFI/PPP政策の最も基本的な問いであり、財源としてのPFI/PPPという誤解は、わが国でもあり得る話である。特に、近年では、対象となる事業分野の拡大、類型の多様化が進んでおり、これらをすべて同じ土俵(ロジック)で議論することが難しくなっている。また、実際に実施まで至ったPFI事業において、その適用の是非が政治的争点となり混乱状態に陥る事例などを聞くと、PFI/PPPに関する社会的共通理解の必要性と経験から学ぶことの重要性を改めて認識されされる。世界的にも模範となるようなPFI/PPPのモデルがわが国に定着することを目指して、私自身、研究を重ねていきたい。

*細かいことで恐縮だが、英国、日本以外では必ずしもPFIという用語が用いられておらず、PPPが一般的に用いられるので、単にPPPと称する。


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2018年04月01日

ソーシャルインパクト評価に関するセミナーの開催について

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(特非)CNCP NPOファイナンス研究会 会員
(特非)社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会理事 足立 忠郎


サービス提供部門のNPOファイナンス研究会では、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)という資金調達手法の適用可能性を検討している。Vol.42においてインフラメンテナンス国民会議のロジックモデルとインパクトマップを事例として、NPO法人にとって有力な資金調達手法としてSIBの可能性について紹介した。
今回はCNCPで関わっている3つの事業の中間報告としてセミナーを開催したので、その概要と、図表を添え「ウナギ完全養殖」および「電線地中化」事例の事業モデルを掲載している。
1.セミナーの概要について
セミナー名称:ソーシャルインパクト評価と建設分野におけるモデル事業への挑戦
開催時期及び場所:3月23日(金)13:30〜16:30、千代田区錦町名古路ビル会議室
CNCP会員、CNCPサポーターなど約30名が参加した。
2.セミナーの内容について
(1)基調講演:「ソーシャルインパクト評価とは何か」
新日本有限責任監査法人パブリック・アフェアーズグループリーダー 高木麻美氏
社会的インパクトが注目されている背景として、@企業の社会性を考慮することが長期的価値の最大化に寄与するという投資家の意識の変化、AESG(環境・社会・起業統制)投資の増加、BSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まり、C「休眠預金の活用」への活用実績などを紹介いただいた。また実例を示しながらロジックモデルとインパクトマップ作成のポイントを示していただいた。「手段」ではなく「成果」を示すことが必要であること、資金調達の場合はどのアウトカム(成果)に対して支払いの条件を設定するか、変化をいかに示すかに留意すべきであることを理解した。

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高木氏の基調講演の様子

(2)事例研究成果発表
以下の3件のロジックモデルとインパクトマップを紹介した。
1) SIBファイナンス適用事業化検討例
⇒具体的なSIBファイナンス適用検討の可能性の高い2つの事業
@ ウナギ完全養殖インフラ整備事業  【CNCPシンクタンクチーム 小重忠司氏】
A 電線の地中化事業【NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 井上利一氏】
2)課題解決型事業へのソーシャルインパクト評価の適用例
⇒金額的価値までは算出しないが、成果の指標値達成評価(テータ化)を行う事業
B インフラメンテナンス国民会議市民参画フォーラムでの検討
【CNCPインフラメンテナンス研究会 足立忠郎】

このうち、SIBに関わる事業例1)@、Aのロジックモデルとインパクトマップの具体例は以下のとおりである。文字を追ってその考え方の意図するところを感じてもらえれば幸いである。

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うなぎ完全養殖のロジックモデル

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無電柱化のロジックモデル

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うなぎ完全養殖のインパクトマップ(一部)

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無電柱化のインパクトマップ(一部)

3.パネルディスカッション
テーマ「3つの事例にみるソーシャルインパクト評価の展望と課題」
モデレーター:足立忠郎
パネラー:高木麻美氏、小重忠司氏、井上利一氏、和久昭正氏【CNCP】
討論において高木氏や参加者からいただいたアドバイスの一部を、以下に紹介しておきたい。
・和久委員から補足説明のあったVEの機能系統図は目的・手段の関係で表現されているが、ロジックモデルは原因・結果の因果関係で纏められ、類似性がある。目的に応じて使い分けるのが効率的である。事業戦略作成などにはロードマップが有効な場合もある。
・ロジックモデルは、各事業およびアウトカム間の関連性、時系列性が取り入れられて、最終目的を達成するプロセスをステークホルダー間で共有、合意する手段として有効である。
・インパクトマップは、必ずしも網羅的に作成する必要はない。評価の目的に応じてどのアウトカムに対してどこまで検討するかを事前に決めておくと効率的である。SIB資金の出し手がイメージしやすいアウトカムに絞り込んで金銭的価値化することも重要である。
・測定方法としてアンケートがあるが手間とコストがかかる。先行事例等代用できる指標を探して利用すると効率的である。そうした手引書、データ集の作成と公開など今後の課題は多い。
・昨年には、国交省のまちづくり委員会で社会的インパクト評価について講演する機会があったり、今年の2月には経産省と厚労省主催のSIBセミナーに内閣府、総務省、法務省も共催して課長クラスが話し合うという、省際的な動きがあったりしている。また、内閣府ではPFIとSIBの関連性に関心を持っている。それぞれ思いは様々だが、少しずつ動き出しているのが分かる。
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | NPOファイナンス等