サービス提供部門のNPOファイナンス研究会では、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)という資金調達手法の適用可能性を検討している。Vol.42においてインフラメンテナンス国民会議のロジックモデルとインパクトマップを事例として、NPO法人にとって有力な資金調達手法としてSIBの可能性について紹介した。
今回はCNCPで関わっている3つの事業の中間報告としてセミナーを開催したので、その概要と、図表を添え「ウナギ完全養殖」および「電線地中化」事例の事業モデルを掲載している。
1.セミナーの概要について
セミナー名称:ソーシャルインパクト評価と建設分野におけるモデル事業への挑戦
開催時期及び場所:3月23日(金)13:30〜16:30、千代田区錦町名古路ビル会議室
CNCP会員、CNCPサポーターなど約30名が参加した。
2.セミナーの内容について
(1)基調講演:「ソーシャルインパクト評価とは何か」
新日本有限責任監査法人パブリック・アフェアーズグループリーダー 高木麻美氏
社会的インパクトが注目されている背景として、@企業の社会性を考慮することが長期的価値の最大化に寄与するという投資家の意識の変化、AESG(環境・社会・起業統制)投資の増加、BSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まり、C「休眠預金の活用」への活用実績などを紹介いただいた。また実例を示しながらロジックモデルとインパクトマップ作成のポイントを示していただいた。「手段」ではなく「成果」を示すことが必要であること、資金調達の場合はどのアウトカム(成果)に対して支払いの条件を設定するか、変化をいかに示すかに留意すべきであることを理解した。

高木氏の基調講演の様子
(2)事例研究成果発表
以下の3件のロジックモデルとインパクトマップを紹介した。
1) SIBファイナンス適用事業化検討例
⇒具体的なSIBファイナンス適用検討の可能性の高い2つの事業
@ ウナギ完全養殖インフラ整備事業 【CNCPシンクタンクチーム 小重忠司氏】
A 電線の地中化事業【NPO法人電線のない街づくり支援ネットワーク 井上利一氏】
2)課題解決型事業へのソーシャルインパクト評価の適用例
⇒金額的価値までは算出しないが、成果の指標値達成評価(テータ化)を行う事業
B インフラメンテナンス国民会議市民参画フォーラムでの検討
【CNCPインフラメンテナンス研究会 足立忠郎】
このうち、SIBに関わる事業例1)@、Aのロジックモデルとインパクトマップの具体例は以下のとおりである。文字を追ってその考え方の意図するところを感じてもらえれば幸いである。

うなぎ完全養殖のロジックモデル

無電柱化のロジックモデル

うなぎ完全養殖のインパクトマップ(一部)

無電柱化のインパクトマップ(一部)
3.パネルディスカッション
テーマ「3つの事例にみるソーシャルインパクト評価の展望と課題」
モデレーター:足立忠郎
パネラー:高木麻美氏、小重忠司氏、井上利一氏、和久昭正氏【CNCP】
討論において高木氏や参加者からいただいたアドバイスの一部を、以下に紹介しておきたい。
・和久委員から補足説明のあったVEの機能系統図は目的・手段の関係で表現されているが、ロジックモデルは原因・結果の因果関係で纏められ、類似性がある。目的に応じて使い分けるのが効率的である。事業戦略作成などにはロードマップが有効な場合もある。
・ロジックモデルは、各事業およびアウトカム間の関連性、時系列性が取り入れられて、最終目的を達成するプロセスをステークホルダー間で共有、合意する手段として有効である。
・インパクトマップは、必ずしも網羅的に作成する必要はない。評価の目的に応じてどのアウトカムに対してどこまで検討するかを事前に決めておくと効率的である。SIB資金の出し手がイメージしやすいアウトカムに絞り込んで金銭的価値化することも重要である。
・測定方法としてアンケートがあるが手間とコストがかかる。先行事例等代用できる指標を探して利用すると効率的である。そうした手引書、データ集の作成と公開など今後の課題は多い。
・昨年には、国交省のまちづくり委員会で社会的インパクト評価について講演する機会があったり、今年の2月には経産省と厚労省主催のSIBセミナーに内閣府、総務省、法務省も共催して課長クラスが話し合うという、省際的な動きがあったりしている。また、内閣府ではPFIとSIBの関連性に関心を持っている。それぞれ思いは様々だが、少しずつ動き出しているのが分かる。