
(特非)CNCP NPOファイナンス研究会 会員
(特非)社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会理事
足立 忠郎
サービス提供部門のNPOファイナンス研究会では、NPO事業に本通信Vol.33で紹介したソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)という資金調達手法の適用可能性を検討しているが、そのメンバーとして社会的インパクト評価の研修に参加した結果を含めて、その活動概要を報告する。
1.社会的インパクト評価について社会的インパクト評価は、社会的課題解決の担い手であるNPO/NGOやソーシャルビジネスなどの団体が生み出す「社会的な価値」=「社会的インパクト」を可視化する評価の枠組みとして、最近注目を集めている。
内閣府による社会的インパクト評価の定義は、「短期、長期の変化を含め、事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカムを定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること」であるが、そのアウトカムの多寡に準じて、事業に投じられた融資に対する返済額が左右されることになり、冒頭に述べたSIBにとって重要な指標となる。
これが注目を浴び出したのは、2013年G8サミットでのSIB推進の呼びかけに端を発するが、
・金融危機をきっかけに、資金の出し手となる助成財団や投資家がより成果を重視している。
・事業や活動の社会的な価値を可視化する必要性が認識されてきている。
といった、21世紀の入ってのグローバルな流れが背景にある(通信Vol.31参照)。
2.研修の主旨と概要筆者は、平成29年7月27日終日のスケジュールで開催された褐共経営・社会戦略研究所主催の「社会的インパクト評価研修」に参加した。SIBの日本での第一人者である本研究所代表取締役で明治大学経営学部の塚本一郎教授による講義と、新日本有限責任監査法人高木麻美マネージャーによる実践的ワークショップ研修とを組み合わせて、インパクト評価設計のロジックや実践スキルの向上をめざすのがその主旨である。
講義においては、社会的インパクト評価の2大ツールである、ロジックモデルやインパクトマップについて塚本教授により詳しく説明があったあと、研修に先立って作成、提出していたロジックモデルについて、監査法人のスタッフがそれぞれのテーブルごとのファシリテーターとなり、その作成プロセスを確認していくというグループワークに始まり、インパクトマップの作成実習とその結果発表へと続く、密度の濃い研修となった。
3.CNCP関連事業への適用可能性への挑戦CNCPサービス提供部門のNPO ファイナンス研究会では、これまで様々な形態の助成金やPPPファイナンス、さらには有限責任事業組合方式などを研究してきたが、社会的インパクト(アウトカム)を指標にして事業投資資金の返済を可能にするSIBを、社会的事業に関わるNPO法人にとって有力な資金調達手法と考えてきている。それらの初期FS的なCNCP関係事業として、以下の5つの事業についてその適用性を具体的に検討することにした。
@ インフラメンテナンスの国民理解啓発事業
A インフラメンテナンスの市民との協働事業化
B ウナギ完全養殖インフラ整備事業
C 電線の地中化事業
D 里山整備と木質バイオマス発電事業
4.研修での初期FS事例の紹介(インフラメンテナンスの市民との協働事業化)研修において筆者が取り上げたテーマは、上記のうちAインフラメンテナンスの市民との協働事業化である。この事業は、@と共にインフラメンテナンス国民会議「市民参画フォーラム」のワーキンググループのデーマで、ワークショップ(WS)を数回開催してその具体化に入っているが、種々提起される活動(インプット)から結果(アウトプット)への移行は見通せても、それが短期、中期、長期(最終)の各段階でのインパクト(アウトカム)の評価にどう結びついていくのか、相関関係は見通せなかったのである。
今回の研修でそのテーマに本事業を選び、評価目的を「住民との協働活動への参加を促進すること」とし、ステイクホルダーを市民、行政(議会、首長、職員)、インフラメンテナンス国移民会議としてロジックモデルを作成した。
ロジックモデルは、事業の設計図として実施に必要な「資源」、具体的な「活動」、その活動がもたらす「結果」(下図の左側大枠)や、それが社会的インパクトである「社会・環境の変化」の短期〜長期(最終)的なアウトカム群(右大枠)にどう関係をしていくかを示し、事業目標に至るまでの論理的道筋(ロジック)を可視化するものであり、評価実施の前提となるものである。
ここでは「日常的に市民と行政が協働でインフラメンテナンスに関わっている」最終的な成果として、そこから逆説的に、中期、短期へとロジックを展開して行く手法を採用した。

この事業の実行のためには、最終アウトカムから遡って列記された短期のうち最も効果的なインパクトに結びつく活動から、優先順位を付けて実施していくことになるのが理解される。また、WS等を何回か繰り返しながらこのロジックモデルを共有することにより、事業の途中段階で次善の策に変えていく際にも有用となろう。
一方インパクトマップは、これらの期別のアウトカムごとに、期待される変化、関わるステイクホルダー、評価の指標、データ源を列記、一覧表として作成するが、それを数値として具体化することが課題で、このマップがSIBの成否に関わってくることになる。
今後上記5つの事業に対し、社会的インパクト評価プロセスと、SIBの適用可能性を検討し折を見てサービス提供部門の活動成果として報告したい。
posted by CNCP事務局 at 00:00|
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