2017年03月01日

NPOファイナンス(6)CNCP中間支援組織としての助成金制度への関わり方

CNCPサービス提供部門 NPOファイナンス研究会


1月30日(月)開催の第2回NPOファイナンス研究会では、12名のメンバーのうち8名が参加して、NPO法人活動での助成金制度提供について議論した。その中で、平成15年来その制度を利用して活動し成果を上げてきた、NPO法人「茨城の暮らしと景観を考える会」の三上靖彦代表理事に話題提供してもらったが、内容のうち@まちづくりの現場の事情、A当事者としての主体的実績づくり、B活動資金・助成金の獲得、C立場を強化すること、D助成金の種類、E助成金をゲットする、といった総論的な部分については、本CNCP通信の先月号で「NPOファイナンス(5)シビルNPOに対する助成金適用」と題して投稿して貰っている。
ただその報告では、話題提供後の意見交換内容と、本研究会に先立ってCNCP関連NPO法人に対して行ったアンケート結果、さらには中間支援組織としての今後の助成金制度への関わり方等については触れていないので、この機会に整理、報告しておきたい。
1.「茨城の暮らしと景観を考える会」の助成金事業へのアプローチ
(1)事例紹介とエントリーシート
以下に示す事業概要と右図のようなエントリーシート実例の紹介があった。
@アートによる街の再生のための地域教育支援
Aセントラルビル創業支援プロジェクト
Bオセロでまちづくりを!
C天心が思い 大観が描き 雨情が詠んだ感度の故郷北茨城復興支援プロジェクト
D水戸城跡での歴史的会館づくり(→水戸城周辺歴史まちづくり完成記念式典)
E水戸市の市街地活性化
Fまちなかブランディング『粋な水戸っぽまちづくり』プロジェクト((株)まちみとラボの設立)
        *本通信p5〜6掲載記事参照
また、「映画づくりを起爆剤とした地域活性化」プロジェクトは11億円の自主事業で、桜田門のセット(3年間一般公開)を作ったり、北大路欣也など有名俳優などが参加する映画づくりやイベントなども紹介され、楽しいNPO活動の実態が紹介された。

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(2)まちづくり事業等の助成金事業への挑戦
地域の委員会活動などにも関わり、NPO活動は仲間との役割分担で、事業単位で関わることが多い。
・右図は平成15年NPO法人設立後の主要な活動を列記しているが、赤字は事業提案や具体的な事業推進に関わる活動を、また黒字は市の商工会議所や、国及び県の委員会等、地域への貢献に関わる活動を記している。
・そんな機会にいろいろの人とのつながりができ、‘三上に任せれば’という信頼関係ができて、行政からの予算を得やすくなるという相乗効果が期待される。

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・もちろんその背景として、成熟した実績と、リスクを取って思いを達成しようというアウトロール的なチャレンジマインドが必要である。
・これに対して立ち上げて間もない経験の浅いNPO法人等が提案型で助成金を得たとしても、助成金を出す側の思いに左右される(目的、範囲等の制限)ことになり、実施する側の思いを貫くことは難しい。
2.インフラメンテナンス事業での対応
インフラメンテナンス国民会議でも、自治体支援フォーラムが立ち上げられていることに関連して以下のような意見交換がなされたが、まちづくりとは分野が異なり、その難しさが再認された。
・道路橋の維持管理についてNPOとしての支援をある市に提案をしたが、結果的には体の良い門前払い同然であったことに対しては、まちづくりとは上部組織との関係で基本的に違いがあると思う。まちづくりでは、「景観と観光」といったテーマで国自身が新しい公助・共助の原則を打ち出しており、民間の事業化意識(ひいては提案)が求められているのとは大きな背景の違いがある。
・自治体としては、予算、発注、契約、検査・確認が回れば役目を果たしたことになるという実績優先のルーチンから出ようとはしない。その背景としては、困っているという意識がなく、担当者も2,3年で変わるといった現実がある。こうした商習慣(行政の事業遂行パターン)を変えていくのは容易ではない。

3.CNCPでの支援の可能性と逼迫度
NPOファイナンス研究会では、その設立準備会段階の平成27年4月および今回の第2回研究会開催前の29年1月の2回に分けて、CNCP会員関連のNPO法人に対し「助成金制度の適用状況」についてアンケートを行った。その結果は右図の通りであるが、とくに直近の結果では、過半が助成金制度には全く依存していないことが判明した。また、「Aあるが活動の主体ではない」と答えた4法人のうち2つは、今後対応する方針ではないとのことで、今回の調査に関する限り、CNCPが中間支援組織として助成金制度適用で会員NPO法人を支援することのニーズをくみ取ることができなかったことになる。

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4.CNCP NPOファイナンス研究会の今後の対応
土木学会小委員会レベルを含め、これまで8年余に及ぶシビルNPO法人活動の議論では、常にその活動資金の調達が課題の一つとなってきた。今回の助成金適用を含め今後とも研究会で議論を進めていく予定であるが、その方針について、以下に要約しておきたい。
(1) 助成金
上述の様に現況ではさらなる議論は行わないが、今後の活動状況に応じて助成金適用が具体化した場合には、本研究会として三上会員等それに通じた会員等からのアドバイスを受けて案件ごとに対応することにする。
(2) ソーシャルファイナンス手法の適用
これまでも本通信でNPOファイナンス・シリーズとして紹介してきたSIB(ソーシャルインパクト・ボンド)の適用等を含め、右図に示すCNCP独自の「会員シビルNPO向け助成制度」の創設を含め、引き続きシビルNPO活動に相応しいハイブリッドな資金調達について、議論を継続していきたいと考えている。

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2017年02月01日

NPOファイナンス(5) シビルNPOに対する助成金適用

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CNCP理事 三上 靖彦
NPO法人茨城の暮らしと景観を考える会代表理事 


平成15年にNPO茨城の暮らしと景観を考える会を立ち上げて以来、私たちは市民主体の事業展開を進めるうえで、総額4億円以上の助成金を頂戴している。これまでの経緯をお伝えしながら、私たちシビルNPOにおける助成金適用(ゲット)のポイントを考えたい。
(1)まちづくりの現場の事情
時代は共助型社会(新しい公共)へ大きくシフトしている。基本は民主導で、まずは民が動くこと。行政は支援者(サポート役)である。しかし、バブルが崩壊した平成以降、相変わらず行政主導のまちづくりばかりで、また主体者たる市民の意識もまだまだ低いのが現状である。
そして、画一的で「より多く」「より大きく」「より新しく」にのみ価値観を見出す、個性のないまちづくりが増加し、結果、地方は見事に衰退、消滅可能性が指摘されている。
まちづくりのコンサルタントとして、行政と共に地域づくりに関わってきた立場から、また、私自身、NPOを設立する前には、地元の青年会議所で政策を担当し、純粋に民間の立場から政策を実現するための組織の立ち上げ方、事業の組み立て方などを学び、実践してきたことから、行政頼みでは地域は崩壊することを予感した。

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図‐1 新しい公共(共助型社会)によるまちづくり

(2)当事者としての主体的実績づくり
私たちが市民主体のまちづくりNPOを設立したのは、上記のような背景を踏まえ「今までのやり方を変えよう」と考えたからだ。民の立場で、当事者(自分事)意識を持った事業展開、当事者として腹を括り「自分事」として地域を考える必要性、パブリックマインドとプライベートマインドを併せ持った、民主体の官民連携による事業展開を目指した。具体的には、地元・水戸の中心市街地をフィールドにした「街なか再生」「景観づくり」などに関するワークショップ、まち歩き、講演会、シンポジウムなどを開催することから実績づくりを始めた。
(3)活動資金・助成金の獲得
多くのNPOは「専門性」「人脈」「認知度」「実績」等の不足に悩まされている。それはまさに「活動資金」の不足に直結する。これらは相互に関連し、この5つが揃って始めて1人前のNPOだ。それを、組織の力として蓄えられていないと、継続的事業展開は不可能である。
私たちの場合、「専門性」つまりは事業企画、事業運営等については、私自身のコンサルタントとしてのスキル、青年会議所で培ったノウハウ、さらにはメンバーの有する専門性で充分であった(そもそも、専門性のあるスタッフを仲間にしている)。活動の質を高めたり行政との関係性を構築するための「人脈」についても同様だ。
組織の社会的「認知度」を高めるために、私たちは名称に工夫を凝らしている。正式名称「特定非営利活動法人茨城の暮らしと景観を考える会」は組織のミッションそのものを伝えるもので、このお堅い雰囲気は行政受けする。一方で高校生や主婦たち、一般市民から受けの良い愛称を設立当初から設けている。「WILL」。単純な当て字W(WE)I(Ibaraki)L(Life)L(Landscape)である。これは効果的であった。また広く宣伝する手法として、各種メディアとの連携には気を遣った。県域デジタル放送の準備中でたくさんのコンテンツを求めていたNHK水戸放送局との出会いは、コンテンツはあっても宣伝手法のなかった私たちにとって幸運だった。
そして、事業に必要な「活動資金」であるが、「専門性」「人脈」「認知度」「実績」をきちんとアピールできる企画提案書が書ければ、活動資金をゲット出来る可能性は極めて高い、と考えて良いと思うし、以上の経営資源をフルに活用すれば、社会の課題に対し効果のある、評判の高い実績を作ることは、ある意味簡単だ。

(4)立場を強化すること
さて、行政との連携は、活動資金を得るためのみならず、活動の幅を広げたり、活動に対する公共性を高めたり等、様々な効果がある。私の場合、本業とNPO活動、また地元の商工会議所活動を通し、公的機関の委員をいくつも委嘱されていて、これらが私たちのNPOと地元の行政との連携を容易にする潤滑剤になっている。行政との連携を促進する方法の一つとして、自身の社会的立場を強化することが大切だ。  
地域の中で、日常的に官民問わずに連携して事業を展開していると、助成金をゲットしたい時のみならず、いざという時に協力してくれる。
(5)助成金の種類
提供される活動資金の種類は様々である。例えば、
@助成金へのアプローチ:申請型と競争型や、公募型と指名型。
A提供団体:官公庁や公的団体、民間団体など。
B対象事業:調査研究、事業プロジェクト、組織運営支援、施設設備等。
これらについては、日本財団の提供する包括的助成金紹介サイト「CANPAN」は非常に参考になる。

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図‐2 包括的助成金紹介サイト「CANPAN」(http://fields.canpan.info/grant/

(6)助成金をゲットする
多くのNPOは、助成金の制度に合わせて、やや無理矢理事業を組み立て申請するが、それでうまくいかない。私たちの場合は、まず、本気でやりたい事業をイメージする。次いで、様々な制度の中から、私たちのやりたい事業にマッチする制度を選ぶ。そして、マッチする制度に申請・エントリーする。結果として資金ゲットし、効果的な事業を実施する。
(7)最後に
この記事の執筆にあたって「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」 (個人のキャリア形成は予期せぬ偶発的な出来事に大きく影響されるものであり、その偶然に対して最善を尽くし、より積極的な対応を積み重ねることによって、ステップアップできるという考え方)を思い出した。
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2017年01月01日

NPOファイナンス(4) ソーシャルインパクトボンド(SIB;社会インパクト債)

サービス提供部門 担当常務理事 有岡 正樹


CNCP通信では「NPOファイナンス」と題してこのトッピクス欄で、シリーズ物としてその折々の関連する話題を提供しているが、前(2)、(3)では筆者が参画している「ソーシャルファイナンス研究会」で学んだことを話題としていた。その中で触れてきたソーシャルインパクトボンド(以下SIB)について紹介しておきたい。
(1)SIBとの出会い
筆者は長年にわたり公共事業のPFI事業化に関わってきて、民間資金導入の仕組がその成否を握る重要な要因であることを学んできた。そんな現役時代を経てNPO法人活動に関わって数年後、民間の資金を導入して社会的課題を解決する公共政策を遂行する手段としてBISが注目さていることを知り、3年前にこの分野での先駆者である明治大学経営学部塚本一郎教授が主催する「日本版SIB研究会」に参加させてもらうことになったのが、SIBに関心を示したきっかけである。その後、上述の「ソーシャルファイナンス研究会」や日本NPO学会、日本財団他諸団体が主催するセミナーなどに出来るだけ参加するようにしてきた。
(2)SIBとは
SIBに関連しては、昨年末に上述の塚本一郎教授他が、その分野の図書としては日本で最初の「ソーシャル インパクトボンドとは何か」(ミネルヴァ図書)を出版されて、昨年12月12日明治大学で約80名のその分野に関心の深い視聴者を招いて出版記念講演会が開催され、CNCPも協賛者として会員および土木学会PFI/PPP研究会メンバーが多数参加した。その図書の‘はしがき’によると、SIBとは‘社会状況の改善に民間資金と官民連携の仕組みを活用して取り組むスキームであり、社会的プログラムの運営費用を公金ではなく、民間調達の投資資金で賄い、事前に設定された成果指標を上回るインパクトが達成できれば、政府が投資家に対してリターンを支払う仕組みである’と定義している。これを図示したものが図−1および図−2である。PFI事業手法に知見のある読者には、仕組みとして極めて類似した構図であると直感されよう。
(3)海外での、そして日本での動向
SIBは英国で2010年最初に導入されてまだ日が浅く、その投資額まだ社会的投資の1%に過ぎないが、2年後の2012年英国で開催のG8でも取り上げらたこともあり、それを機にアメリカやオーストラリア等で少しずつ普及され出している。欧米での適用対象は、再犯防止、ホームレス支援、幼児教育といった社会(対人)サービスが中心である。一方日本でも、閣議レベルでその意義や適用の可能性について取り上げられ出したり、一般向けでも主要新聞社説やNHKテレビクローズアップ現代などで取り上げたりしているが、実務的には、まだ社会実験の端緒に過ぎない。日本での適用分野としては地域活性化、空き家対策、さらにはインフラの維持管理等も考えられるので、日本版SIBモデル化の研究にCNCPとして関心を持ち続けたい。

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図‐1 SIBスキームの概念図 (参考:上述図書)

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図‐2 SIBのファイナンスモデル(同上)
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