NPO法人社会基盤の超長寿命化を考える日本会議(LIME Japan)では、去る7月5日(木) 午後約100名の聴衆を招き「地球温暖化時代におけるダムの新たな役割について考える」と題して第15回啓発セミナーを開催した。そのプログラム等については本通信Vol.50に紹介されているので、ここでは翌6日から猛威を振るいだした西日本豪雨にも係わる教訓として、そこで学んだことに触れておきたい。
1.セミナー開催の背景現在、地球温暖化を疑う余地はなく、それに起因するとみられる異常気象である台風の巨大化およびゲリラ豪雨による洪水が毎年のようにわが国を襲い、大きな被害を生じている。こうした中で、ダムに流入する想定を超える大量の洪水を貯留し、下流の被害を軽減するために、厳しいダムの操作を強いられている。この地球温暖化に対する緩和策および適応策の要諦のひとつとして浮上しているのがダムの整備およびその活用である。わが固におけるダムは、治水、利水を目的として、現在までに約2,700 基が整備された。また、東日本大震災における原子力発電所事故により、火力発電や原子力発電に代わる再生可能、エネルギーの“切り札”として、ダムによる水力発電への期待が高まっている 。
このように、地球温暖化対策として、また新たな発電源としてダムが本来持つ機能を再評価する動きが起きているが、国家財政の逼迫、優良なダムサイトの適地が減少したこと、自然環境保全の意識の高まり等の理由により、新規のダムの建設はむすかしい。そのため、既開発のダムに発電機能を付加したり、想定を超える洪水のダムヘの流入に備えた貯水量の増加を企画する本体のかさ上げ、排砂機能の付加など、ダムの有効活用や長期効用を図る、すなわちダム再生( 機能の向上・機能の長期化・機能の回復)が喫緊の課題である。本セミナーにおいては、関係する専門家を招き、ダムを取り巻くこれらの諸課題について議論し、新たに求められるダムの役割や課題について考えたい。
上記は、本セミナーの主催者であるNPO法人LIME Japanの阪田憲次理事長による開会挨拶として、資料で配布された冊子の冒頭に記されたセミナーの文脈である。このうち上に下線を付した一文は、翌7月6日未明から3日間猛威を振るい、西日本に多大な被害を与えた豪雨を想定しての一節ではなく、まさに偶然である。参加者には刻々と変わりゆくテレビの映像を、つい前日に学んだことと重ね合わせ、これからの世代のために土木技術者が果たすべき役割と再認織された方も多かろう。
2.話題提供の論点表は3名の話題提供者の発表内容であるが、これらの詳細はいずれLIME JapanのFace Bookなどアーカイブ版で今後公表されることになっている。

3.パネルディスカッションの論点
冒頭の阪田理事長の問題提起に対して、既存ダムの活用は本当に実現は可能なのか、自然環境への影響はないのか、個々の人間力が低下する中で高度な技術的操作や運用は可能なのか、さらにはダムの活用に伴う大規模な改造に対し住民の理解は得られるのか、といった視点でパネルディスカッションが白熱した。モデレーターは、定番の元NHK解説主幹で、現LIME副理事長の齋藤宏保氏である。
その中で以下いくつかの論点について、重要な提言、提案を箇条書き的に触れておきたい。

白熱するパネルディスカッション
【なぜ、ダムへの期待が高まっているのか】
・巨額事業費、施設規模大、建設場所に制約等、新設ダムは限界の中、既存ストックを長期にわたり有効に使っていく時代との認識。維持管理を適正に施し、うまく使えば半永久的に利用できる。
・地球温暖化で異常気象が頻発する時代に入り、ダムの運用に課せられた操作基準で適応できないケースが増えてきている。湛水と放流のタイミング等、臨機の措置がとれるギリギリの判断の限界。
・様々な事態を想定してのケーススタディを常態化し、リスクマネジメント意識の共有が重要。
【ダムの改造は可能か、環境への影響は、さらに費用対効果は】
・ハード面でのダム改造と、ソフト面での運用操作の改善の最適な組み合わせが土木技術者に課せられた宿命。新設では道路・鉄道の付け替え等に膨大な費用が掛かるが、数mの嵩上げでは不要。
・ダムの漏斗的形状が故、わずかな嵩上げが貯水容量に与える効果は大きく危機一髪時の効果期待。
・嵩上げに伴う水圧等外力の増加というリスクとの見合いで、ケースバイケースであることは自明。
【洪水対策として、周辺ダム群の操作による洪水防止や被害低減の可能性と、その運用の課題は】
・複数ダムを組合わせての放流を含め、ダム操作での洪水対応は、下流河川部での河道改修など恒常的な維持管理との相乗効果である。下流部の住民の防災・減災意識を含め、治水への理解と協力。
・機構を含む国交省や、電力、農水、自治体といった縦割り的なダム事業の横串的連携が不可避。
【化石燃料の枯渇や利用による地球温暖化の現況下、既存ダム利用での水力発電への期待】
・逆に電力系以外のダムを水力エネルギー源として利用し、エネルギー自給率の向上を国是化。
4.まとめ
パネルディスカッションが終わって、パネラーによる色紙に記しての‘ひとこと’は本セミナーの恒例である。紙面の関係で個々の説明にまで触れることはできないが、「賢く運用、賢く整備」、「可能性と限界を」、「河川行政の中心に水力エネルギーを」、そして最後に「人々のいのちと暮らしを守るダム」と阪田理事長が締めてセミナーを終えた。夜半から翌日にかけて次々と報じられる、西日本での豪雨災害状況のテレビニュースに固唾をのみながら、大過に至らないように祈るしかなかったが、「土木と市民社会をつなぐ」をキーワードに活動を目指すシビルNPO の役割に意を尽くし続けていきたい。
(LIME Japan理事・CNCP常務理事 有岡正樹記)
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