2020年11月01日

私たちの「土木と市民社会をつなぐ」

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土木学会/教育企画・人材育成委員会/シビルNPO推進小委員会 副幹事長
日本ミクニヤ株式会社
上園 智美


0. はじめまして
土木学会/教育企画・人材育成委員会/シビルNPO推進小委員会(以下本小委員会)では、NPO法人「シビルNPO連携プラットフォーム(以下CNCP)」と連携して「土木と市民社会をつなぐ」ことを基本テーマに活動しています。また、土木学会の他組織とCNCPのコアメンバーと共に、このテーマに賛同してくれる仲間が集まる「土木と市民社会をつなぐフォーラム」の設立準備も行っています。
ここでは本小委員会のメンバーのうち上園・矢代・三村・大沼から、我々のこれまでの活動とこれからの活動の紹介をさせていただきます。

1. これまでの活動の紹介(防衛大学校 矢代晴実)
土木学会の会員は、顧客である市民と土木をつなぐ人材として、土木技術の実践と仲介を果たすことを期待されています。このことから、以下のような実態を明らかにするためのアンケート調査( 『土木インフラ・まちづくりにおける市民協働に関したアンケート』調査結果報告https://committees.jsce.or.jp/education14/node/33 )を実施しました。
・市民協働活動がどれくらい行われているのか
・実際の活動内容はどのようなものか
・活動にどれだけ土木技術サービスが提供されているのか
・そこに土木技術者が必要とされているのか など。
これによると、土木については、
・広く市民に知ってもらえるよう、広報等の活動のあり方なども考える必要がある
・土木が市民生活の周りに普通に存在し、密着したものであることを理解してもらうべき
との結論が得られました。
そこで、土木に対する市民の理解を少しでも進めるため、前述の「土木と市民社会をつなぐフォーラム」のあり方の検討や設立に向けた準備などの活動を2カ月に1回の頻度で実施することとし、これまで活動を続けてきました。

2. これからの活動の紹介
2020年10月から本小委員会の体制が変わり、下記のような活動を進めています。
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それぞれの活動について、もう少し詳しくご説明します。

A:フォーラム仲間の情報共有を容易にする(株式会社エイト日本技術開発 三村昇)
土木と市民社会をつなぐ活動をしているフォーラムの仲間が、自分たちの活動に役立つ他の活動情報を容易に検索・共有できるサイトを準備しています。フォーラム仲間を始め、同じような活動をしているフォーラム以外の組織・団体・個人の活動等情報をデータベース化し、簡単にお互いの活動内容や実績等を検索できるように開発しています。
これからの活動の参考としたり支援をお願いしたり、あるいは一緒に活動するなど、フォーラム仲間の活動を後押しできるような場の創出を目指して完成させていきます。
B:フォーラム仲間の個々の組織の活動の支援(日本ミクニヤ株式会社 上園智美)
「土木と市民社会をつなぐ」活動を実施されている団体・個人はたくさんいらっしゃいますので、それぞれの活動の現状や課題をお互いに知っていただくため、我々に何ができるか、議論を重ね検討してきました。その中で、それぞれの活動についてお話を聞き合うのはどうか?という意見がまとまり、「土木と市民社会をつなぐ」活動を実施されている方にゲストスピーカーとして参加いただき、組織活動についてお話を伺い、みんなで共有していくという支援を行っていく事になりました。                 
新型コロナウイルスの影響によりテレワークなどの取り組みが進み、ZOOMなどのウェブ会議やウェブ配信技術が皆さまの生活の中でも馴染んできたこともあり、これらのシステムも使った取り組みを考えています。
これからいろんな方々にゲストスピーカーとして参加いただき、活動についてお聞かせいただきたいと思っています。またオンライン配信だけでなく録画配信も考えていますので、距離や時間のハードルを超えた支援ができるのではないかと思っています。

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C:「市民」との相互コミュニケーション(国土防災技術株式会社 大沼乃里子)
土木と市民との相互コミュニケーションを促進する場として、土木に関するQ&A等を通じた土木コミュニケーション活性化の検討を進めています。
1つ目は、市民の皆さんからの素朴な質問に土木関係者が回答する「場」として、Facebook・Twitterを活用した「質問コーナー」を設置しました。第1弾の質問は「トンネルはなぜ丸とか四角とかいろいろな形があるのですか?」といった可愛らしい質問。必ずしも学術的に正しい回答でなくても、いろいろな切り口からの回答・意見などを、フォローしてくださっている皆さんにコメントの形で投稿してもらっています。
また2つ目は、市民の皆さんから「土木に関する質問」を継続的に集め、土木関係者もこれらに回答するような、参加型の双方向コミュニケーションの「場」を作りたいと考えています。
今後は土木関連イベントでの一般来訪者の皆さんへのアンケートの活用も検討していきます。

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いろんな活動を発信していきますので、どうぞよろしくお願いします!
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「学び」と野外活動

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シビルNPO連携プラットフォーム 常務理事/企画サービス部門長
社会基盤ライフサイクルマネジメント研究会 副理事長
横塚 雅実


リヒャルト・シルマンは1874年ドイツ、祖父・父ともに教師の家庭に生まれました。師範学校に在学中の17歳のとき、地理教師が進めた授業に触発され貴重な徒歩旅行を体験しました。彼は1895年、教会学校の教師に採用されると、児童と一緒に野外に出て、遊び歌をうたい、算数など教科の授業も行う「ワンデルンシューレ(移動教室)」を思いつきます。そして、これがのちにユースホステル運動の発想を生むことになります。
シルマンは教室で授業を受ける子どもたちに、元気がなく、病気がちであることを憂えていました。当時、急速な工業化に伴う大気汚染で肺病になったり、周囲の急速な生活環境の変化で精神的に落ち込むような子どもたちが多かったといいます。シルマンは町なかの教室から子どもたちを連れ出し、郊外の森の中で授業をおこなってみたところ、子どもたちに笑顔が戻り、元気になるという効果に気付いたようです。
1909年、彼はドルトムント近くのアルテナを始点としてライン川沿いにアーヘンの丘陵地帯を抜ける8泊の徒歩旅行を実施しました。徒歩旅行2日目に激しい風雨に見舞われたとき、農家に納屋の宿泊利用を依頼したが断られ、一行は村の学校で教員の妻の許可を得てやっと宿泊できました。「ドイツ国中の学校が、宿舎(ホステル)として提供されれば、子供たちのために、安全で簡素で格安なユースホステルを作れる」と発想し、これを契機にユースホステル運動が始まります。
その後、この運動はドイツ国内に拡大し、第2次世界大戦という不幸な出来事がありましたが、ヨーロッパ、アメリカへと広がりました。日本へは戦後、1951年にアメリカ経由でユースホステルが導入され、東京・日光・富士・伊豆等13ヶ所に設置されました。現在では世界で約80の国と地域に約4,000か所、日本国内には約220か所のユースホステルが設置されています。世界で年間宿泊者数は約3,700万人、ユースホステル会員数は380万人、世界最大の宿のネットワークです。
私も1972年、当時NHK総合テレビが放映した「太陽の丘」という、ユースホステルを舞台にしたテレビドラマに影響を受け会員に登録しました。このドラマは伊豆山中にあるユースホステルで、さまざまな問題を背負いここを訪れる若者たちと、ペアレント(管理人)一家との交流を描き、社会や家族を見つめたものでした。森繁久彌がこのペアレントを演じ、田辺靖雄、九重祐三子、岡崎友紀などが登場します。
私の場合は徳島県鳴門市のユースホステルの運営を支えるボランティア(ヘルパー)として学生時代の4年間を過ごし、そこを訪れる同世代の青少年(ホステラー)と交流する貴重な機会を得ることができました。夕食後、ホステラーは食堂に集まり、歌を歌い、ゲームを楽しみます。そして彼らは翌朝自ら部屋を清掃し、「行ってきまーす」と元気に次の目的地に旅立っていきました。ペアレントの青木夫妻(他界)は私にとって両親も同然で、鳴門は第2の故郷でした。また、全国各地から集まったヘルパーは今も「渦潮の会」という懇親の集まりを継続しています。
野外での非日常的な体験は、青少年に貴重な「学び」の機会を与えます。人はひとりでこの社会にいるのではなく、他者と繋がり結びながら、その関係の中に、自分を発見しようとするものであること。そしてその過程で、自らが新しい価値をつくりだし、それを人々の生活や社会に埋め込んで、新たな価値によって革新し続けるものであること。このような「学び」の実践が、旅をするという非日常的な体験で、青少年に育むことができるのです。シルマンの時代と背景は大きく異なりますが、青少年がこのような「学ぶ」機会を得ることを、我々はたゆまず努力して提供する責務を持っているように感じています。
そして、この「学ぶ」姿勢は世代を超えて、今の私たちにこそ、求められているものと思います。

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2020年10月01日

10年目の所感

シビルNPO連携プラットフォームサポーター
飛島建設株式会社 
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松尾 和昌


■はじめにお断り
中堅ゼネコンで広報業務をしております。一応土木技術者ではありますが、この寄稿文には技術的なことやCNCPの活動目標的なことは一切書いておりませんので、ご容赦下さい。
2010年4月から広報業務に従事しておりますと、数式とか研究論文とか全く縁のないものとなりました。その前は約20数年間土木設計業務でしたので、あまり時間的余裕もなく、家族には迷惑をかけたと実感しています。
広報2年目くらいの時から、「広報は暇な方が良い」「定時退社が良い」と確信いたしました。なぜならば忙しくなるのは、会社にとってネガティブな事柄が発生した時のみと言っても過言ではないからであります。会社にとってポジティブな事柄が発生した時は、ちゃんと8時間の勤務時間で終われるのです。
以下、私の広報生活10年目の印象に残ったことを綴ります。
■数学(算数?)
どうも広報の仕事をしていますと定性的なことが多く、数字を扱うときも足し算や掛け算で済んでしまい、もはや技術者ではないと感じてしまいます。そんな時は円の面積の求め方を考えることにしています。そう小学生の時習ったアレです。今でもこれは数学の素晴らしさを表しており、導いたお方は天才と思っています。円の中心から外側に物凄く微細にスライスし、それらを上下交互に並べて長方形にし、面積=πr2というもの。文句をつけようがなく、スッキリしますよね。この「スッキリ」感が大事で、私が広報業務の中で大切にしている中の一つです。技術のプレスリリースでもIRのプレスリリースでも。少々難解な事柄もわかりやすい文言にすることが、記者さんのみならず市民社会に受け入れていただく大前提だと思います。
■イノベーションマインド
先日ある方の講演で、こんなことを仰っておられました。「イノベーションと技術の進歩は同じと思っている方も多いと思いますが、実は全く異なるものです。イノベーション≠技術の進歩、イノベーション=路線転換、もしくは価値次元の転換である。」と。なるほどそうなんだと意識改革いたしました。例えば一昔前のウォークマン、あれは新しい技術でもなく、ただ単に小型化し再生させて聴くだけのものですが、イノベーションですから大ヒットしました。酒のワンカップ○○もそうですし、最近ではレッドブル。日本人が同じ形の瓶で栄養ドリンク剤を飲んでいる光景を見て、容器をカンにして売り出したら海外で若者に大ヒット。(今は日本でもありますが)
技術を進歩させることは当然必要ですが、多大な労力やお金が掛かります。ならば既成のモノや技術を応用ではなく、価値次元を転換させて、何かできたらと思っております。やはりキーは、20代30代の方がどのようなことを望んでいるかでしょうか。
■価値あること
ネット社会である今日、「価値がある」ということは、@役に立つ、A便利で使いやすい、B魅力的な、C探しやすく迷わない、Dアクセスしやすい、E信頼できる、とされています。これはネット社会に限定されることに限らず、すべての事柄に通ずると思っています。忘れてならないのは、そう判断するのは人であり、体験を通じ
判断するのです。もっと言うと、AIに判断させてはいけないのです。6つの項目を全部クリアできれば良いのですが、現実はそうもいかず、少なくとも半分以上クリアするべく広報業務を行っています。私どもゼネコンの世界は、なかなか一般の方々から縁遠い世界に見られがちですが、「信頼できて魅力的ですよ」と敢えて声に出さなくても済むような社会にしたいと思います。

■おわりに(電気のありがたやと市民社会との距離)
雑多なことを思いつくまま述べてきましたが、こんな中身のない文章でよいのかと危惧しております。ですが終わりに二言。一言目、私は千葉県市原市に住んでおりますが、昨年の台風15号でかなり長い期間停電生活を強いられました。この新型コロナの影響で、リモートだニューノーマルだと叫ばれておりますが、電気の力に頼らざるを得ません。すべての住宅に超小型蓄電設備か超小型発電機がほしいなあ。二言目、建設業界と市民社会との距離感ですが、ハグの距離感ではなく、ハンドシェイクの距離感が良いと思っております。時には意見対立もあるでしょうし、論戦(喧嘩)もあるでしょう。広報と報道機関(記者)の距離感と同じと思います。通常は握手の関係ですが、1,000に1回位殴り合える関係、即ち本音を言い合える距離感が良いのです。ハグだと相手を見て喧嘩できませんから。

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