2020年10月01日
コロナ禍で思うこと
全世界がコロナの大きな影響を受けている。日本においてもこれまでの社会・経済に内在していた様々な問題が顕在化し、具体的な事象から日本が置かれていた現状を実感させられる状況が続いているが、一方で新しい動きも見え始めている。
例えば、マスクや消毒薬、医療用ガウン等の不足問題は、生産拠点が特定国に偏っていたことに起因し、その奥には極端な「利益第一主義」的なグローバル経済という背景が存在していたことに多くの国民が気付いた。そんな中で4月27日付の日経新聞の一面には『配当より雇用維持を。機関投資家が転換』とあり、「短期的な利益追求より社会的課題に向き合う方が長期的な成長につながると株主の考えが変わってきた」との指摘があった。
また、多くの国民が直接的に対応したことによる新たな変化も起きつつある。例えばテレワーク、オンライン会議については、これまで中々進まなかったが、外出自粛要請の中で、結果的に急速に普及することとなった。いくつかの課題も指摘されてはいるが、「どこにいても仕事ができる」、「通勤ラッシュに耐えながら都心に通勤する必要がない」、「遠距離を理由に参加できなかった会議に参加できるようになった」など効果を実感している国民も多い。社会構造を変える「きっかけ」となり、そしてそれを推進する「有効なツール」ともなり得る新しい流れとして期待したい。
しかしコロナとは関係なく毎年自然災害が多発している。昨年の台風19号も各地に大きな被害を残したことは記憶に新しいが、その中でもいくつかの治水プロジェクト等が完成していたため被害が最小限に押さえられた例があったことも事実である。例えば台風直撃直後であったものの、鶴見川流域の総合的な対策が功を奏してワールドカップ「日本vsスコットランド戦」が開催でき、しかも正々堂々と日本が勝利し決勝トーナメントに進出したことは特筆すべきことである。今年も各地で災害が発生している。特に7月の熊本県球磨川の被害は甚大であった。8月下旬、現地では、地元流域自治体と県・国との検証委員会が開催され、ダムが存在した場合の効果についても確認することとなったとの報道があった。データや事実に基づいて客観的かつ冷静に検証しその結果を今後に活かしていただきたい。
コロナをきっかけに既に社会が変わりつつある。今こそ「よりよい社会」へ「変えていくチャンス」と捉えたい。例えば、自然災害やパンデミック等、社会に甚大な影響を与える「外力」に対しても「余裕をもった、強く・しなやかで、安全・安心な社会」にすべきだと強く思う。また、「思いやりのある社会」、「短期ではなく長期的志向をもった持続可能な社会」なども新しい社会に向けての重要な考え方だと思う。国民的な議論がなされ、より多くの国民が共感できる「考え方」が形成され、共有されれば、よりよい方向に「社会を変えていく」ことも可能であると信じたい。社会を構成する一員として、そしてそれを支える「社会インフラ」に関わる者として、多くの方々と議論を重ねながら自分にできることから行動を起こしていきたいと思う次第である。
(令和2年9月28日提出)
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0)
| 災害、危機管理等
2020年09月01日
地域の液状化に備える
はじめに
2011年3月11日東日本大震災が発生、私が所属するNPO法人シビルまちづくりステーション(CMS)では発生後すぐに被災地救済の動きとして救援物資を集め、現地に乗り込みました。合わせて、被害踏査も行いました。その中で身近な所で発生した災害として液状化被害に着目し、浦安、船橋をはじめ内陸も含め被災地での踏査を行い、組織内に「液状化対策プロジェクト」を立ち上げることにしました。
東日本大震災における液状化被害、船橋市の液状化
東日本大震災は広範な地域に津波被害もたらしましたが、そのなかで液状化が被害を一層大きくしていることが分かりました。また液状化被害は、利根川流域、東京湾岸エリヤの海面埋立て地域や内陸部地域における干拓や沼の埋立地などに広がっています。

地元船橋でも、市の全面積の85%が被害を受けた浦安市に比べると知られていませんが被害は大きく、その復旧・復興が求められていました。当NPO・CMSでは船橋市市民公益公募型支援事業の指定を受けて、液状化に関する総合的なパンフレットを作成したり、フォーラムやセミナーなど一連の催しを開催して、広く市民に地震・液状化の被害に対する情報・知見を提供し、災害に備える活動をしました。そしてこのような結果を踏まえ、実態調査やハザードマップの検証を行うとともに、再液状化も含め今後の対策を検討・提案しました。
船橋市の被害実態調査とハザードマップの検証
船橋市の被害実態調査として家屋の被災状況、道路・上下水道・ガスなどのライフラインの被災状況、それに対する行政の対応等を調べました。この結果を地図上に表わし、過去の地形、地盤、現在のハザードマップなどとの関連などを見ることにより、新たにいろいろなことが見えて来ました。

液状化の被災はハザードマップでの液状化危険性の高い区域で数多く発生していますが、内陸部においても液状化危険性が「ない」(図−1の白色部)とされる区域でも、液状化が発生している箇所がかなり認められています。
図-1は、液状化ハザードマップに家屋等の被害箇所を重ねたものに、さらに旧地形を重ねたものです。旧地形の低湿地部を着色(ピンク)しましたが、この図から、液状化危険性の「ない」箇所の多くが旧地形の低湿地部に相当することが判明しました。このことから、液状化危険性の評価は旧地形の低湿地部を考慮するのが良いと考えられます。

おわりに
行液状化の問題は重要であるにもかかわらず、当時はまだ認識が浅く、行政は殆ど対応が出来ておらず、市民にいたっては被災者はどうしていいか分からない状態でした。 市民は、行政は、NPOはどうすればいいのか、現在も各主体間の情報共有、協力関係、各種問題の課題解決が求められています。
資料
・地震による液状化に備えよう ―液状化についての知識を高めよう― 平成25年3月発行
・液状化対策へのエントランス ―「地震防災フォーラム・セミナー」より― 平成26年3月発行
・実態調査から見える被害状況 ―船橋の液状化被害はこうだった― 平成27年3月発行
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0)
| 災害、危機管理等
心豊かに生きるための社会基盤づくりに思う
東日本大震災から2年が経過した2013年、日本学術会議で科学・夢ロードマップ作成の話が持ち上がった。託されたテーマは土木工学・建築学分野の科学・夢ロードマップの作成であった。日本列島が地震の活動期に入り、エネルギー供給の構造が変化し、高齢化が進み人口が減少するなかで、持続可能で安全・安心な社会を実現するためには、土木工学・建築学分野が、過去を見直し、現在を見つめ、未来を見据えて、科学・技術を一層向上させていくことが課題であるとの認識が背景にあった。
まとめ役として、土木工学・建築学分野のキーワードを「持続可能で豊かな社会の構築」を中心に議論を進めようと考え、土木工学と建築学に関係する学会の先生方にメンバーに入っていただき、議論を開始した。私の思惑は大きく外れ、各学会の先生方からは、「豊かな社会」ではなく「心豊かな社会」の構築が重要であるとの指摘を受けた。「持続可能で豊かな社会」を中心に持ってきたかった私は、各学会の理事会にまで出席して、「心豊かな社会」でなく「豊かな社会」の採用をお願いした。結果として、土木工学・建築学分野の科学・夢ロードマップの中央には「持続可能で豊かな社会」を持ってくることができた。その一方で、委員の先生方の意見を尊重して、説明文には「人口が減少し高齢化が進むなかで、健やかで心豊かに生きるための住宅・社会基盤づくりに取り組む。」として、心の文字を入れさせていただいた。
その後も「心豊かな社会」という言葉が脳裏から離れなかった。そのような中、コンパッションという言葉が目に飛び込んできた。「共にいる力」をコンパッションといい、「立ち直る力」、「やり抜く力」に関連し、利他性・共感・誠実・敬意・関与が基本概念とのことである。脳神経科学では、認知的視野、思考力、免疫力、レジリエンスなどへの効果が検証されているという。免疫力とレジリエンスのキーワードに魅せられた。土木のイメージに合うような気がしている。
新型コロナウイルスの感染症と自然災害の複合災害のリスクに備えなければならない時代を迎えた我々には、多様な生き方を視野に入れた社会基盤づくりとともに、コンパッションでいうところの「共にいる力」、「立ち直る力」、「やり抜く力」が不可欠であるように思う。「心豊かな社会」とはどのようなものであるのか、もう少し議論しておくべきであったと反省している。
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0)
| 災害、危機管理等