2020年07月01日

コロナ過で感じた日本の脆弱さ―そしてこれからの土木

シビルNPO連携プラットフォーム 代表理事
山本 卓朗
img005.jpg


コロナ非常事態宣言が避けられなくなった3月末から私も引きこもりの生活が始まった。以来3か月、連日報道されるあらゆるコロナ情報を自分なりに分析して、変革を求められるこれからの生活に思いをはせながら過ごしてきた。
宿命的に自然災害の猛威にさらされている私たちは、阪神淡路大震災や東日本大震災と2度にわたって“想定外”を経験し、いまや首都直下や東南海での巨大地震も現実味を帯びてきた。こういう事態になっても多くの日本人はその対策を政府や専門家に任せて、起こった時は仕方がないという感じで日常生活をおくっているようだ。しかし3度目の想定外は、思いもしない方向からやってきた。子供の頃に結核が死病でなくなったし、自分の人生でパンデミックを経験することになるなんて想像もしなかったから、心の備えが全く出来ていないことに気付かされた。という次第で、防戦一方に見えるコロナ対策を不安に駆られながら見ているうちに、改めて日本のそして日本人の脆弱さを思い知ることとなった。

●市民力・民間力の弱さ―“お上”に頼りすぎる日本人
明治維新以来今日に至るまで、日本は強力な官僚機構を軸にして発展してきたことは明らかである。狭い国土に1億以上の人口を抱える小さな日本が世界に伍して頑張る一つの姿であり、それが悪いとは思わない。しかし官僚機構にも多くの弱点があり(例えば縦割りの権力構造や複雑な手続きなど)、今回のような危機管理に際してマイナスに作用することは、PCR検査騒ぎでもはっきりしている。あえて市民力・民間力と書いてみたが、PCR検査サポートは専門的過ぎて市民力・災害ボランティアの流れではまず無理かなと考えた。しかし医師会や大学医学関係、民間の医療機関が結束すれば、これを民間力として、もっと早く保健所中心主義から脱出できたのではと思ったが、遺憾ながら動きが遅すぎた。まずは“お上”に頼る、陳情するという姿は随所にみられ、“お上”もそれに応えなければ・・・とする上から目線の施策がしばしば登場する。2枚のマスク騒ぎも根っこのところは、“お上”に頼りすぎる日本社会が生んだ珍奇な出来事ではなかったかと思う。蛇足ながらマスクについて一言。子供の頃は、何でも自分で作るのが当たり前だったから、風邪に備えて持っているマスクが枯渇すれば、手ぬぐいで作ろうと考えていた。不織布マスクも煮沸して再利用しているので、未だ買ったことが無い。マスクに関して政府のなすべきは、命がけで任務を果たしている医療関係や福祉施設向けに特化すべきだったということであろう。

●すべてのスピードを阻害しているコンプライアンス・思考停止社会
10万円給付金の申請手続きと振込までの手続きをめぐって、図らずもお役所仕事の煩雑な仕組みを実感することとなった。慣れている人にはそれほど複雑ではないが、便利がうたい文句のマイナンバーの使い勝手が悪かったり、普通は自宅にコピー機などない人たちに、申請の免許証などのコピー添付が必要だったり、申請者の不満が高まっている。ことお金に関わる話だから、絶対にミスは許されないという基本原則が立ちはだかるので、どう簡素化すればいいか、お役所も頭が痛いと思う。実は情報化社会になって、様々な仕組みがものすごく便利になった半面、情報管理という面で、がんじがらめの安全対策が必要になっている。加えてコンプライアンス:法令遵守が過度に働くから、ミスを犯さないためのマニュアル強化や徹底した教育がなされている。一番の問題は、ネット社会で、中傷・誹謗が社会問題化するほどエスカレートしていることであろう。他者を攻撃し非難することで、自己の立場を強くしようとするのは、今に始まったことではないが、ネットで炎上するレベルになると、大きな組織・企業ほど防衛策を強固にせざるを得なくなる。過度のコンプライアンスが思考停止社会を生み出し、スピード感のある施策がどんどん減少することとなる。パンデミックにおいては、その結果、死者の激増という最悪の答えが待っていることになる。

●パンデミックとこれからの土木
先日、土木学会から「パンデミックの時代に土木の世界がどう対応していくか」について検討会を始めたいとのことで、スタートに当たって意見を求められた。今回のコロナについて様々な事を考えてきたが、土木の世界との関わりを意識したことはなかったので、とても新鮮な問いかけであった。
皆さんからは、コロナより邪悪なウィルスの発生も予想するならば、長期的に社会生活の在り方も大きく変わることを考えなければならない。自然災害と防災の面では、土木世界は深くかかわってきたが、パンデミックも自然災害の一つとして、防疫を考慮したインフラを加える必要がある等の意見が出された。具体的には、都市計画や地域計画、交通計画などに、防疫の仕組み付加していく。そしてCNCPとしては、「土木と市民社会をつなぐ」議論の中でも、新型ウィルスや防疫、そして新しい生活について取り上げていく必要を感じたところである。

<閑話休題>世界と比較してみよう。
 添付の表は世界の感染状況の国別比較である。日本の感染者数と死亡者数の少ないことは、かねてから海外でも議論になっていて、データを過少に発表しているのではないかと不信を持たれたこともあった。京都大学の山中教授がこのよくわからない原因を「ファクターX」と呼んでから、冷静な議論がなされるようになった。しかしインフルエンザウィルスが年ごとに変異していくことは経験済みであり、次なるコロナがアジアそして日本に脅威となる悪玉コロナに変異しないとは言えない。欧米と比較して圧倒的に小規模で済んでいる今の状況は、我が国にとってまことに幸運であり、この与えられた余裕時間を使って次なる悪玉コロナに万全の備えをしなければならないとおもう。

img1020.jpg
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 災害、危機管理等

”検体採取用綿棒”すら足りなくて大丈夫か

PCR検査「1日2万件体制」を実現したとの厚労省発表に医療現場から疑問の声

シビルNPO連携プラットフォーム 理事
元金沢大学大学院教授 世古 一穂
img1018.jpg


新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査について厚生労働省は5月15日、国内における1日当たりの実施可能数が約2万2000件と発表した。
安倍晋三首相が4月6日、その時点で1日あたり約1万2800件とされていた実施可能数をほぼ2倍にあたる1日2万件まで拡充するとした目標が数字上では発表されている。
だが実態はどうか。この「目標1日2万件」に対しては人員のほか防護服や医療用マスクなどの不足を指摘する声が当初からあり、表向きの数字が発表された。
現在も有効性を疑問視する声が現場からは上がっている。最大のネックとなるのがPCR検査用の「鼻咽頭ぬぐいよう綿棒」の不足というのだ!
実際にPCR検査を行なう某大学病院の検査室で働く40代の臨床検査技師は次のように説明する。
「検査では1検査につき1本の綿棒が必要。1日に全国で2万件の検査を行なうには月に約60万本が必要になりますが、業者によればPCR検査用の綿棒と容器のセット(主にイタリア製)は輸入しており日本では生産していないと思われます」
同じく大学病院で働く50代のベテラン臨床検査技師も「PCR検査が保険医療報酬になかなか認められないような状況では病院内に技術や機器が定着するわけもない」と普及に懐疑的。むしろコロナウイルスの検査も早期にインフルエン新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査について厚生労働省は5月15日、国内における1日当たりの実施可能数が約2万2000件と発表した。
安倍晋三首相が4月6日、その時点で1日あたり約1万2800件とされていた実施可能数をほぼ2倍にあたる1日2万件まで拡充するとした目標が数字上では発表されている。
だが実態はどうか。この「目標1日2万件」に対しては人員のほか防護服や医療用マスクなどの不足を指摘する声が当初からあり、表向きの数字が発表された。
現在も有効性を疑問視する声が現場からは上がっている。最大のネックとなるのがPCR検査用の「鼻咽頭ぬぐいよう綿棒」の不足というのだ!
実際にPCR検査を行なう某大学病院の検査室で働く40代の臨床検査技師は次のように説明する。
「検査では1検査につき1本の綿棒が必要。1日に全国で2万件の検査を行なうには月に約60万本が必要になりますが、業者によればPCR検査用の綿棒と容器のセット(主にイタリア製)は輸入しており日本では生産していないと思われます」
同じく大学病院で働く50代のベテラン臨床検査技師も「PCR検査が保険医療報酬になかなか認められないような状況では病院内に技術や機器が定着するわけもない」と普及に懐疑的。むしろコロナウイルスの検査も早期にインフルエン新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査について厚生労働省は5月15日、国内における1日当たりの実施可能数が約2万2000件と発表した。
安倍晋三首相が4月6日、その時点で1日あたり約1万2800件とされていた実施可能数をほぼ2倍にあたる1日2万件まで拡充するとした目標が数字上では発表されている。
だが実態はどうか。この「目標1日2万件」に対しては人員のほか防護服や医療用マスクなどの不足を指摘する声が当初からあり、表向きの数字が発表された。
現在も有効性を疑問視する声が現場からは上がっている。最大のネックとなるのがPCR検査用の「鼻咽頭ぬぐいよう綿棒」の不足というのだ!
実際にPCR検査を行なう某大学病院の検査室で働く40代の臨床検査技師は次のように説明する。
「検査では1検査につき1本の綿棒が必要。1日に全国で2万件の検査を行なうには月に約60万本が必要になりますが、業者によればPCR検査用の綿棒と容器のセット(主にイタリア製)は輸入しており日本では生産していないと思われます」
同じく大学病院で働く50代のベテラン臨床検査技師も「PCR検査が保険医療報酬になかなか認められないような状況では病院内に技術や機器が定着するわけもない」と普及に懐疑的。むしろコロナウイルスの検査も早期にインフルエンザと同様の抗原検査に移行させ、町の病院で行なえるようにすべきだと説く。
厚労省の専門委員会も先にPCR検査が日本で拡充されなかった理由として、保健所の業務過多や機材のほか「民間検査会社などに検体を運ぶための特殊な輸送機材」の不足などを挙げた。だが「綿棒」という検体採取に不可欠なものすら自給できない日本の状況まで、同委員会では把握していたのか? コロナ対策のみならず、従来の社会の歪みを是正し、最低限、生命に関わるものは自給できる社会の構築へと地域や企業が向かうチャンスとして今を捉えるべきではなかろうか。

img1019.jpg
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 災害、危機管理等

2020年06月01日

既に起こっている未来

シビルNPO連携プラットフォーム 理事
(株)熊谷組常務執行役員 国際本部長
山崎 晶
img987.jpg

4月に所属会社の国際部門の責任者に就任した。その矢先のコロナウイルスである。渡航者や帰国者の隔離措置、入国や渡航の制限や禁止措置、定期航空便の減少や就航中止、都市封鎖や国内便・国際便の発着禁止、日本の政府開発援助の窓口である国際協力機構の現地日本人職員の帰国、こうした状況が各国で起きている。我々の主な事業展開先であるアジア諸国、各国はどのようにコロナウイルスに適切に対処するのか、現地の医療事情の貧弱さをどのようにリスクヘッジするかなど、今後の避けて通れない様々な問題が懸念される。
国内でも緊急事態宣言が発令され、外出自粛が要請され、テレワークによる在宅勤務、訪問や出張禁止など、業務を取りまく状況が激変している。在宅勤務実施のため各人の業務内容や役割を確認したら、特にそうしたものは決めていなかったなどの笑えない話も聞く。往来でのコミュニュケーションが取れなくなり、ウエッブ会議などが日常化して、食べず嫌いのICT技術も使ってみると中々のものであることにも気づかされている。今まで当たり前だと思っていた仕事やそのやり方も見直すべき機会と感じる。
日常の生活も大きく変わった。飲み会が減り血液検査の結果が劇的に向上した、GWに家族の元に帰れず単身赴任先で引きこもっている、など些細なこともある。しかし、今まで同様に皆で豊かさを求めて、与えられた仕事を良かれと思ってこなし、やりがいと給料を得て、衣食住や旅行などを楽しむ生活を満喫する、こうした日常のあり方を再考する人もいるのではないだろうか。生きるとはなにか、繁栄とはなにか、幸福とはなにか、そして仕事とはなにか・・、にまで繋がっていく問いのようにも感じる。
「苦境にあっても、天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていく事が、これからのわたくしたちの使命です」、これは東日本大震災直後の被災地のある中学校の卒業式での卒業生代表の答辞だ。当時の状況は今の状況とは比べ物にならないくらい厳しいものであり、この言葉は今の我々に大きな勇気を与えると共に、与えられた状況で精一杯がんばれとの覚悟を要求してくる。
経営学者Druckerは「既に起こっている未来を見過ごさず、その兆候を仕事や組織に取り込め、それが指導者の役割だ」と言っている。これに従うと、我々の営為や仕事でも、今回のリスクを放置して結果の悪さをコロナウイルスに転嫁し責任逃れをするのではなく、リスクをチャンスと捉えて、新しい取組みを構築する必要があると感じる。しかしながら、自分の経験や実力不足のために、中々具体的な考えや取り組みに結び付いていないもどかしさを感じる。
コロナがある程度収束したら、CNCPの先輩諸氏とこうしたことを様々意見交換して、ご指導を頂きたいと考えている。

posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 災害、危機管理等