2018年10月01日

シドニー研修旅行に同行して

img639.jpg
CNCPサポーター
神戸大学大学院海事科学研究科 准教授 秋田 直也


昨年(2017年)の4月から、およそ11ヶ月間、SLIM国際会員のJohn Black名誉教授のもとで、ボタニー(シドニー)港に発着する外貿コンテナ貨物の内陸輸送において、鉄道輸送の利用促進を目的としたインターモーダル・ターミナルの設置効果の予測・評価に関する研究を行っていた。今回のシドニー研修旅行に同行させていただくことになったのは、5月にSLIMジャパン理事長の有岡正樹氏が、私のお世話になっていたニューサウスウェールズ大学(UNSW)に、John Black名誉教授との打ち合わせで来訪されたことがきっかけとなる。シドニーハーバートンネル事業について、色々なお話しをしていただいた。不勉強でお恥ずかしい話ではあるが、実は、その時初めてシドニーハーバートンネル事業のこと、さらに、その事業に日本人である有岡氏自身が携わっておられたことを知り、とても感銘を受けた。さらに、11月に今回のシドニー視察旅行を企画されているとのことだったので、是非ともご同行させていただけないかとお願いしたところ、ご快諾いただき、今回の機会を得た次第である。
私は、2日目のオーストラリアの首都キャンベラへの訪問、4日目のシドニーハーバートンネル会社への訪問、そして最終日のNSW州道路局とのワークショップに参加させていただいた。いつもは、“もの”の輸送を対象とした研究を行っているで、知らないことばかりであったので、とても勉強になった。また、参加者の皆様から発せられる“熱(パワー)”に圧倒されつつも、皆様から、とても良い刺激を受けた。参加者の皆様にお会いできたことに、とても感謝している。

1.オーストラリアの動向
オーストラリアの面積は、769万2,024平方キロメートルで日本の約20倍。これに対して人口は、約2,460万人と日本の約5分の1程度。しかし、近年、日本では、少子高齢化と人口減少の問題が深刻化しているのとは逆に、オーストラリアでは、人口はまだまだ増加すると推計されている。それ故に、オーストラリアの主要都市は、順次、計画的に、郊外部の都市化を進めており、都市の拡大化が図られている。こうした状況のもと、オーストラリアでは、大きな導入インパクトが期待されるプロジェクトが複数みられ、これらがRuth Lawrence博士の話題にあったソーシャルインパクトボンド(SIB)へと繋がっていくものと考えられる。

img640.jpg
Sydney’s main demand corridors
NSW Transport Masterplan Final 2012より

2.ボタニー港とインターモーダル・ターミナル計画
2013年4月、NSW州は、シドニー港のコンテナ港湾であるボタニー港の管理運営権を、99年間コンセッションとして、オーストラリアの年金ファンドを中心とするNSW Ports Consortiumに、43億豪ドル(当時の為替レートで約3900億円)で売却した。これに伴いシドニー港湾公社(SPC)は廃止され、NSW Portsが民間の港湾管理者となっている。ボタニー港は、シドニー市中心部から南へ約10数kmの地点に立地し、ハチソン、Patrick、DP Worldの3つのターミナルオペレーターによって運営されている。この内、Patrickターミナルでは自動化が進められており、騒音が少ない上、夜間の照明が不要とのことであった。
ボタニー港におけるコンテナ取扱い個数は、2015年の230万TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ換算)から、上位推計で、2025年には430万TEU、2035年には660万TEU、2045年には840万TEUと着実に増加し、30年間で約3.7倍になると推計されている(2015年の神戸港は270万TEU、大阪港は222万TEU)。

img641.jpg
Sydney metropolitan intermodal terminals

img642.jpg
Navigating the Future NSW PORTS’30 YEAR MASTER PLAN, NSW Ports, 2015より

img643.jpg

ボタニー港におけるコンテナ取扱い個数は、2015年の230万TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ換算)から、上位推計で、2025年には430万TEU、2035年には660万TEU、2045年には840万TEUと着実に増加し、30年間で約3.7倍になると推計されている(2015年の神戸港は270万TEU、大阪港は222万TEU)。これにより、ボタニー港に発着するトラック台数の増加が生じ、港湾周辺道路の交通渋滞をさらに悪化させるだけでなく、沿道への環境影響などが懸念されている。このため、鉄道輸送のシェアを現行の14%から40%に増やすことを目的として、インターモーダル・ターミナルの設置計画が策定されている。本設置計画は、ボタニー港から50q圏内の範囲に、倉庫(ストック)機能を有したインターモーダル・ターミナルを設置しようとするもので、内陸部での物流拠点としての役割も果たす。

3.ICTを活用した公共交通サービス
シドニー滞在中は、いつも公共交通機関を利用して移動していた。その際に重宝したのが、スマホアプリとしてTransport for NSWから提供されているOpal TravelのTrip planner機能とオパールカードであった。Trip planner機能は、現在位置と目的地、出発時刻を入力すると、直近のバス停などからの複数の経路と所要時間、料金などが示される。さらに、現在位置からバス停までの道案内までしてくれ、初めての場所を訪れる際には、とても便利だった。もう一方のオパールカードは、鉄道、バス、ライトレール、フェリーのすべてで利用することができた。さらに、以下の様なサービスが無意識のうちに受けられた。
・オフピーク割引(休日、週末は全時間オフピーク割引が適用)
・乗り継ぎ割引(降車後、60分以内に別の交通機関に乗車したら2ドル割引)
・途中下車(降車駅にて60分以内に乗車すると途中下車とみなされる)
・上限金額(1日と1週間の最大金額が決められており、それ以上利用すると無
 料。日曜日のみ最大金額は2.6ドルと格安に)
・週間トラベルリワード(1週間に8回交通機関を利用すると9回目から半額)等
オーストラリアでは、こうしたICTを取り入れた社会システムの効率化や自動化が積極的に進められていると非常に感じる。しかし一方で、依然として、オーストラリアは自動車に依存した社会から脱却できていないと思う。朝夕のピーク時に発生する交通渋滞は、本当にすさまじかった。その上、バスは時刻表通りに来ないし、到着時間もなかなか読めない。さらに、バスの車内が満員の場合、乗車が拒否され、なかなか乗れないことも多々あった。日本と比べて、まだまだ公共交通での移動は不便だと思った。
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 国際化等

2018年09月01日

NSW州道路局とのワークショップ

img355.jpg
NPO法人SLIM Japan 理事長 有岡 正樹


これまで9回に分けて連載してきた経緯からも分かるように、今回5日間のシドニー視察旅行もいよいよ最終日である。その日の夜行便で帰国するというあわただしいスケジュールで、今回の中でも重要視していたNSW州道路海事庁(Roads and Maritime Services:RMS)とのワークショップが、シドニー西部パラマッ中核都市パラマッタの州政府付属施設で開催された。

1.ワークショップの概要
日本側からは訪豪者8名、オーストラリア側は3名の日本人 駐在員含め10名の、計19名で右表に示すスケジュールでの5時間のワークショップである。
話題提供テーマ(右表黒太字)としては、オーストラリア側からは、RMSのColin Langford部長による「州の自動車道と橋梁のアセットマネジメント」および国際コンサルタントKPMG取締役のRuth Lawrence女史の「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)と社会的インパクト」と題しての2つの講演と、日本側からは筆者が「インフラメンテナンス国民会議活動」、皆川勝東京都市大教授(現副学長)が「インフラマネジメントにおける市民組織の関与」という2課題を分担して、日本のインフラメンテの現況を報告した。

img607.jpg

ワークショップというと4, 5人で小机を囲み、ポストイットを用いてとなるが、言語の問題もあり講演後は1,2の質問のみとして、表の朱字で示すように、我々による日本の地方自治体や市民組織による活動紹介のあとは立食のサンドイッチを片手に、Ruthの講演の後はアフタヌーンティーを楽しみながら、それぞれセミナー室と隣り合う部屋で、45分ほど時間をかけて意見交換を行うように手配してくれた。途切れることなく5時間を有効に使っての、オージー流の合理性を垣間見ることができたのではと思っている。

2.オーストラリアにおけるソーシャルキャピタルとソーシャルインパクト
オーストラリア側の2つの話題の内、最初のColin Langford氏の州道路のアセットマネジメントについては、これまでのシリーズの関係で前回(9)で皆川先生が寄稿されているので、筆者については後者のDr. Ruth Lawrence(次ページ右上写真)のとくにソーシャルインパクトボンド(SIB)に関連して触れておきたい。CNCPでは2016年よりNPOファイナンス研究会において、とくに社会的起業に対する新しい資金調達の仕組みとして注目され出しているSIBについて勉強し、CNCPのNPO法人会員が関係している事業に適用できないかの検討を始めていた。
一方、2017年3月横浜で開催された「ソーシャルインパクト・フォーラム 横浜2017」に参加して、KPMGオーストラリア重役のLth Lawrence女史の‘Trends, Performance and Challenges of SIB in Australi’という講演を聞いたが、それが終わって休憩時間に彼女に話し掛け、“いまCNCPではNPO事業にSIBが適用できないか研究しているので、また機会がればぜひ意見交換を願いたい”と自己紹介しておいたのが始まりである。

img608.jpg

そしてその機会は意外と早くやってきて、このシリーズで書いている視察旅行で11月に訪豪し、インフラメンテをテーマにセミナーを行うので、その機会にぜひ講演をお願いしたいとメールで持ち掛けていた。同年6月末に彼女が再度国際会議で来日した際に具体的な打ち合わせをして、上述した今回のテーマで講演を依頼していたのである。
  このテーマはいわゆる土木屋にとっては耳慣れない用語ではある。ただ、NPOファイナンス研究会での検討や、最近はインフラメンテ国民会議に関連してソーシャルインパクト評価の適用などもあって、認識を共有できる概念ではあるが、当初は私も含めて、日本で外国でのことを学んでも馬の耳に念仏といったところであった。せっかく知り合った世界でのその道のプロであるDr Ruth Lawrebceとの縁もあってよい機会であるので話を聞いてみようとなった訳である。紙面の関係でその内容について触れることはできないが、話の流れは以下の通りである。
1. インパクト投資の定義
2. マーケットの状況
3. 取引のタイプ
4. オ―ストラリアでの市場
5. ソーシャルインパクトボンド(SIB)
6. 事業化調査(FS)
7. ソーシャルキャピタル(社会関係資本)
このうちSIBについては、本CNCP通信の  「NPOファイナンスシリーズ」で何回か触れている。また、ソーシャルキャピタルについては本通信Vol.18(平成17年10月号)「用語としての『ソーシャル・キャピタル』の偶然」で書いている。参照願いたい。

img609.jpg

3.そしてその後
  今回のワークショップのコーディネーターであったDr John BlackもSIBの話を具体的に聞くのは初めてということで、そのあとの意見交換会で彼女を捕まえて結構長く話をしていたが、SLIMとして何か具体的な検討をしているのであれば彼女と意見交換してみたいとの事であった。早速CNCPのNPOファイナンス研究会で議論している、電線の地中化、バイオマス発電、さらには津波がれき処理(Green Hill)事業などのPPTスライドを送ってそれについて説明した。
  彼は後日彼女に会って、当方が提案したテーマは “今いきなり言われても”とのことだったが、例えばということで、高齢化社会の日本の‘高齢者運転と交通事故’に対し、運転免許の返上とそれに対するサービスの提供といったスキームとしてあり得るという点で合意したようだ。オーストラリアでも関心のあるテーマで、キャンベラ政府やシドニー大学でも調査が行われており、共同研究もあり得るということだ。‘瓢箪から駒’とはいくまいが、これからもこうした繋がりは保ちたい。
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 国際化等

2018年08月01日

道路と橋梁のアセットマネジメントの状況

img045.jpg
常務理事 皆川 勝
(東京都市大学副学長)


昨年(2017年)の11月9日より15日までの7日間、CNCP・SLIM合同メンバーによるシドニー視察旅行に参加した会員らによる視察旅行記第9弾です.今回は,オーストラリアの東海岸に面し,シドニーも含まれるニューサウスウェールズ州(以下,NSW州)の高速道路及び橋梁の維持管理・運営の現状に関してです. プレゼンターは同州の北西地域の道路ネットワークのディレクターであるColin Langford氏です.以下‘State highway and bridges asset management’と題しての彼の講演の一端を、使用したスライドのいくつかを引用しつつ,概要を紹介します.
NSW州には,4300qの国道を含む18,000qの道路が供用されています.そのうち,147qの道路については有料道路で民間により運営されています.また,橋梁はカルバートも含めて5,622橋,トンネルは23本,その他12,000を超えるアセットが含まれています.舗装,橋梁などの構造物について様々な施策が展開されています.

img343.jpg

img344.jpg

道路については,写真に示すような交通量の増大などにより,その維持管理が重要な課題となっています.特に道路の安全性や道路の品質についてはユーザーの満足度が70%未満という状態で,これを改善することが目指されてきました.道路の凸凹のレベルを示すラフネスについての要求水準が利用者によって異なることを考慮して,ダイヤモンド研磨を用いたコンクリート舗装のラフネスの改善により,NSW州の道路舗装は都市部と遜色のないレベルにまで改善されてきました.
一方で,一般道については,状況は有料道路に比べて劣悪な状況です.右図は,横軸に1月から12月をとり,縦軸に路面のくぼみがない道路の比率を示しています.NSW州ではくぼみがない道路の比率は60%程度であり,特に9月の西部では40%にまで落ち込んでおり,改善が望まれています.NSW州ではコストを最小に,ユーザーの満足度を最大にする,新しい意思決定支援システムを導入したことで,近年,ユーザー満足度は徐々に改善しています.

img345.jpg

img346.jpg

次に,構造物に関する状況をご紹介します.橋梁については,1948年以前に架設されたものも少なくなく,特に木橋の老朽化が顕著で,全橋梁の架け替え費用は182億ドルと見積もられています.右図は地域ごとの橋梁の架け替え,補修,塗装費用の見積もり結果です.コストの70%は,同図の緑色部分に対応する架け替えのためのコストとなっています.費用は,架け替えに6.5億ドル(年間8000万ドル),補修に1.4億ドル(年間2500万ドル),塗装に約1.4億ドル(年間2000万ドル)で総計9.3億ドルと見積もられています.写真は,補修を必要とする主な劣化の状況です.左から,古い鋼橋の疲労き裂,鉄筋コンクリート橋の鉄筋腐食,木橋の劣化の例です.

img347.jpg

img348.jpg

主要なリスクは,落橋や供用停止に至る崩壊・損傷,塗装の劣化等による管理者としての評判の低下などです.リスクマネジメント対策としては,2年ごとの点検,重量車両のモニタリングとその削減,関係者の協調作業による課題の特定や優先順位の決定,全体的な戦略の策定などが必要となっています.戦略としては具体的には,木橋の保存戦略,鋼橋の塗装戦略,シドニーハーバー橋のマネジメント戦略などが挙げられています.写真は,高さ制限を超える車高の車両が衝突して損傷したトラス橋の例です.

img349.jpg

地域行政と構造・橋梁技術との協調により,過去10年以上にわたって,橋梁については全体としては安定した状況にあります.例えば,48の木橋については,26橋を補修,22橋を架け替えまたは取り壊しと決定し,すでに7橋が架け替えられました.今後の課題としては,遺産価値の高い橋梁の更新,建設時期が古く幅員の狭い橋梁など標準を満たさない橋梁問題などです.
NSW州の道路および道路構造物としての橋梁のマネジメントの状況を紹介しました.貴重なご講演をいただいたColin Langford氏(写真),この研修を企画運営された有岡さん,参加されたすべての皆さんに感謝して,この報告を終えます.

img350.jpg

皆川 勝(minatororo@gmail.com)
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | 国際化等