昨年(2017年)の4月から、およそ11ヶ月間、SLIM国際会員のJohn Black名誉教授のもとで、ボタニー(シドニー)港に発着する外貿コンテナ貨物の内陸輸送において、鉄道輸送の利用促進を目的としたインターモーダル・ターミナルの設置効果の予測・評価に関する研究を行っていた。今回のシドニー研修旅行に同行させていただくことになったのは、5月にSLIMジャパン理事長の有岡正樹氏が、私のお世話になっていたニューサウスウェールズ大学(UNSW)に、John Black名誉教授との打ち合わせで来訪されたことがきっかけとなる。シドニーハーバートンネル事業について、色々なお話しをしていただいた。不勉強でお恥ずかしい話ではあるが、実は、その時初めてシドニーハーバートンネル事業のこと、さらに、その事業に日本人である有岡氏自身が携わっておられたことを知り、とても感銘を受けた。さらに、11月に今回のシドニー視察旅行を企画されているとのことだったので、是非ともご同行させていただけないかとお願いしたところ、ご快諾いただき、今回の機会を得た次第である。
私は、2日目のオーストラリアの首都キャンベラへの訪問、4日目のシドニーハーバートンネル会社への訪問、そして最終日のNSW州道路局とのワークショップに参加させていただいた。いつもは、“もの”の輸送を対象とした研究を行っているで、知らないことばかりであったので、とても勉強になった。また、参加者の皆様から発せられる“熱(パワー)”に圧倒されつつも、皆様から、とても良い刺激を受けた。参加者の皆様にお会いできたことに、とても感謝している。
1.オーストラリアの動向
オーストラリアの面積は、769万2,024平方キロメートルで日本の約20倍。これに対して人口は、約2,460万人と日本の約5分の1程度。しかし、近年、日本では、少子高齢化と人口減少の問題が深刻化しているのとは逆に、オーストラリアでは、人口はまだまだ増加すると推計されている。それ故に、オーストラリアの主要都市は、順次、計画的に、郊外部の都市化を進めており、都市の拡大化が図られている。こうした状況のもと、オーストラリアでは、大きな導入インパクトが期待されるプロジェクトが複数みられ、これらがRuth Lawrence博士の話題にあったソーシャルインパクトボンド(SIB)へと繋がっていくものと考えられる。

Sydney’s main demand corridors
NSW Transport Masterplan Final 2012より
2.ボタニー港とインターモーダル・ターミナル計画
2013年4月、NSW州は、シドニー港のコンテナ港湾であるボタニー港の管理運営権を、99年間コンセッションとして、オーストラリアの年金ファンドを中心とするNSW Ports Consortiumに、43億豪ドル(当時の為替レートで約3900億円)で売却した。これに伴いシドニー港湾公社(SPC)は廃止され、NSW Portsが民間の港湾管理者となっている。ボタニー港は、シドニー市中心部から南へ約10数kmの地点に立地し、ハチソン、Patrick、DP Worldの3つのターミナルオペレーターによって運営されている。この内、Patrickターミナルでは自動化が進められており、騒音が少ない上、夜間の照明が不要とのことであった。
ボタニー港におけるコンテナ取扱い個数は、2015年の230万TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ換算)から、上位推計で、2025年には430万TEU、2035年には660万TEU、2045年には840万TEUと着実に増加し、30年間で約3.7倍になると推計されている(2015年の神戸港は270万TEU、大阪港は222万TEU)。

Sydney metropolitan intermodal terminals

Navigating the Future NSW PORTS’30 YEAR MASTER PLAN, NSW Ports, 2015より

ボタニー港におけるコンテナ取扱い個数は、2015年の230万TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ換算)から、上位推計で、2025年には430万TEU、2035年には660万TEU、2045年には840万TEUと着実に増加し、30年間で約3.7倍になると推計されている(2015年の神戸港は270万TEU、大阪港は222万TEU)。これにより、ボタニー港に発着するトラック台数の増加が生じ、港湾周辺道路の交通渋滞をさらに悪化させるだけでなく、沿道への環境影響などが懸念されている。このため、鉄道輸送のシェアを現行の14%から40%に増やすことを目的として、インターモーダル・ターミナルの設置計画が策定されている。本設置計画は、ボタニー港から50q圏内の範囲に、倉庫(ストック)機能を有したインターモーダル・ターミナルを設置しようとするもので、内陸部での物流拠点としての役割も果たす。
3.ICTを活用した公共交通サービス
シドニー滞在中は、いつも公共交通機関を利用して移動していた。その際に重宝したのが、スマホアプリとしてTransport for NSWから提供されているOpal TravelのTrip planner機能とオパールカードであった。Trip planner機能は、現在位置と目的地、出発時刻を入力すると、直近のバス停などからの複数の経路と所要時間、料金などが示される。さらに、現在位置からバス停までの道案内までしてくれ、初めての場所を訪れる際には、とても便利だった。もう一方のオパールカードは、鉄道、バス、ライトレール、フェリーのすべてで利用することができた。さらに、以下の様なサービスが無意識のうちに受けられた。
・オフピーク割引(休日、週末は全時間オフピーク割引が適用)
・乗り継ぎ割引(降車後、60分以内に別の交通機関に乗車したら2ドル割引)
・途中下車(降車駅にて60分以内に乗車すると途中下車とみなされる)
・上限金額(1日と1週間の最大金額が決められており、それ以上利用すると無
料。日曜日のみ最大金額は2.6ドルと格安に)
・週間トラベルリワード(1週間に8回交通機関を利用すると9回目から半額)等
オーストラリアでは、こうしたICTを取り入れた社会システムの効率化や自動化が積極的に進められていると非常に感じる。しかし一方で、依然として、オーストラリアは自動車に依存した社会から脱却できていないと思う。朝夕のピーク時に発生する交通渋滞は、本当にすさまじかった。その上、バスは時刻表通りに来ないし、到着時間もなかなか読めない。さらに、バスの車内が満員の場合、乗車が拒否され、なかなか乗れないことも多々あった。日本と比べて、まだまだ公共交通での移動は不便だと思った。