2019年03月01日

フランクルの人間性心理学と自己超越性

img045.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム副代表理事
(東京都市大学副学長)皆川 勝


ヴィクトール・フランクル(1905-1997)は,オーストリア生まれの精神科医・心理学者です.ユダヤ人として第二次世界大戦中にナチスによりアウシュビッツ強制収容所に収容され,奇跡的に生存・解放され,父母や妻を収容所で亡くしました.収容所での体験をもとに執筆された「夜と霧」が有名です.本稿では,フランクルが提唱した人間性心理学の概要を,山田邦男訳の「意味への意思」(春秋社, 2002.7.)その他の著作を参考に紹介するとともに,この心理学の観点から態度決定のあり方を考察します.
フランクルは,右図に示すように,人生の意味は,「意味への意思」を持って,態度・創造・体験の価値を生むことにあり,特に自己超越的に態度価値を実現することにより,自己実現あるいは幸福が結果として得られるとしました.自己超越とは自分自身の欲求と関わらないことを意味しており,利他性と通じる概念です.人間以外の動物が利用価値をもつのに対して,人間に利用価値を求めるべきではないとし,良心という意味器官を用いて,自律的に束縛されず行動を起こすことができる人間の人格的価値の重要性を説きました.人間は「何かからの自由」と「何かへの自由」という二つの自由性をもっており,前者は束縛からの自由を,後者は行動への自由を意味しています.特に後者の自由は良心に基づいて行動することの自由性であり,これこそが人間の人間たるゆえんであるとされています.自由性を有する行動により,人間は自分の未来の行動を選択することができます.
また,人生の意味は,人により,日により,時間によって異なってくるものであり,重要なことは人生一般の意味ではなく,各人の人生の個々の瞬間における態度決定などによる意味であるとされています.このことは,ある特定の人間の言動が社会を危険に陥れたり,逆に救ったりすることになるような状況での行動の選択では重要です.

img749.jpg

このフランクルによる人間性心理学から何を学ぶかもまた人それぞれだと思います.私たち日本人は,狭い組織の中で「個人」を主張せず,周囲を気にしながら,当たり障りのない言動を選択する民族と言われます. 何らかの権力や権威におもねって,自らの主張を述べることを躊躇っていないでしょうか.私自身の人生はそのようなことの連続であったように思います.フランクルは,「行動を起こした事実は過去の事柄になることによって固定化され,永遠に生きる」と述べています.やるべき時に行動を起こさなかったこともまた,過去に固定化され消せないことを意識することが自己変革や社会変革の第一歩であるように思います. 皆川 勝(minatororo@gmail.com)
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | その他(随筆的な投稿)

2018年12月01日

木版画年賀状

img744.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム個人正会員 比奈地 信雄


一昨年までCNCP通信の原稿依頼作業をしており、会員の方々の素晴らしい活動報告等に接し、感服しておりました。まさか今回小生に原稿依頼があるとは夢にも思っていませんでしたので大変困惑いたしました。
CNCP通信の作成に携わり、各分野で活躍しておられる会員の方々はさぞ多彩な趣味をお持ちし、楽しんで居られる事だろうと想像しておりました。
出来ればそのような趣味の一端でも記事にしていただければより趣深い通信誌になるのではないかと思っておりました。そこで今回恥も外聞も捨て小生の趣味の一端をお話し、そのきっかけになればと披露する事に致しました。
11月の声を聴くと毎年年賀状が売り出されます。それと同時に私も年賀状を作成しなければと心地よいプレッシャーが襲ってきます。50年以上毎年木版画で年賀状を作っているので年中行事ととらえ楽しみながら取り組んでおります。まず今年はどのような図柄にしようかから始まり、何色で仕上げるか、題字は何にするか、版木の材質の検討、版木に図柄の転写、彫面個所の色づけ、彫刻作業、はがきの湿らし、摺り作業等多数の工程を経て仕上げます。中でも画題の選定には神経を使い苦労しています。よく毎年その年の干支を題材にする人等同じ画題で作成する人が居りますがどうもマンネリになるようでなるべく毎年題材を変えるようにしております。その年に行った旅先で印象に残った景色や話題になった建物、小さい時から親しんでいる芝居や文楽の中でおめでたい場面を題材にしております。ここ数年は瀬谷に住んで40年余りになりますので「瀬谷をふるさとにする会」に参加し瀬谷の名所的な画題を採用しております。平成31年の賀状はこの9月に80歳になりましたので平成最後の年と併せておめでたい「壽三番叟」にしようと思っております。
版画を作成しているときはほとんど何も考えず無我の境地で細心の注意を払って版画刀を動かし、至極の時を過ごすことが出来ます。特に彫る事により版木から発するほのかな香りをかぎ、版木の癖をなだめながら対話しどのように仕上がるかを想像してわくわくしております。また彫り終え最初に摺る時のドキドキ感は毎年不安と期待とが交錯し、何とも言えない達成感が漂います。
この歳まで版画制作が出来る事に幸せを感じると共に何時までも道楽が続けられるように頑張ろうと思っております。

img745.jpg
イタリア バローナ
アリーナの朝

img746.jpg
竹抜き五郎 団十郎

img747.jpg
敦煌壁画

img748.jpg
道成寺
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | その他(随筆的な投稿)

ジェロントロジー

img743.jpg
シビルNPO連携プラットフォーム常務理事
株式会社アイ・エス・エスグループ本社代表取締役
SLIM JAPAN副理事長 中村 裕司


“ジェロントロジー (Gerontology)”という言葉があります。
Gerontとは、「老人」という意味のギリシャ語、-tologyは学問を指し示す接尾辞です。併せてジェロントロジー。これまでは主として医学の見地から、老年学、老人学、加齢学などと訳されてきました。
健康だけでなく、高齢者の福祉や社会参加、メンタルケアや年金問題を範囲とし、医学・社会学・生理学・心理学・経済学・法学・工学・建築学など、多様な見地から高齢者や高齢化について探求することを目的にした学問です。
元々、1903年イリヤ・メチニコフというロシアの免疫学者が言い始めた言葉で、老年の生きがいや社会参加あるいはシニア層の戦力化やシニア顧客層といったビジネス視点からも「老人」を研究対象にしてみてはという発想だそうです。ビジネス視点に沿った分野は、特に「産業老年学」とも名づけられております。
日本においても、桜美林大学院に老年学専攻があるほか、東京大学では「高齢社会綜合研究機構」が2009年から発足しています。東大では『2030年超高齢未来』を想定し、どんな高齢社会を実現することが課題なのかが多面的に研究されています。
「産業老年学」は、老人の生きがい、あるいはアクティブシニアといった健康志向にとどまりません。“高齢者”のための社会工学ではなく、むしろ“高齢社会”のための工学を目指していると言った方が適切だと思います。
ジェロントロジーが「高齢社会工学」に向かうものであるとするならば、それは社会基盤づくりを通じて国土やまちや社会を具体化してきた土木工学の延長線に位置する学問であり、「土木と市民をつなぐ」を標榜するCNCPの旗印からすれば、指向が一致する領域ではないかと考えます。
ジェロントロジー=高齢社会工学の目指す未来は、AIや自動走行を基盤とするモバイル社会かも知れませんし、高齢化する社会に対応したレジリエンス社会かもしれません。また、両者が融合する結果がコンパクトシティの実現を促進するかもしれません。社会が否応なく「高齢化」する以上、高齢社会に即応できる工学の樹立が望まれていく傾向は漸増するに違いありません。
この新しい概念である「高齢社会工学」に挑んでみることも、CNCPの今後の目的にしてみては如何でしょうか。
(中村裕司は、2019年より新任理事を努めさせて頂きます。宜しくお願いします。)
posted by CNCP事務局 at 00:00| Comment(0) | その他(随筆的な投稿)