2020年05月01日

新型コロナウイルス問題で考える中国の光と闇

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シビルNPO連携プラットフォーム 理事
NPO全国街道交流会議 代表理事
パシフィックコンサルタンツ株式会社 特別顧問
藤本 貴也


最近の新聞や雑誌等では専らコロナ問題がその中心テーマになっている。中央公論4月号トップ記事の鼎談で西洋史が専門の木村凌二先生(東大名誉教授)の、「中国政府が被害を最小限にとどめるような形でこの問題をうまく処理した」とすれば「今度は、社会主義型の独裁を見直すべきだ、という意見が出て来ないとも限らない」、即ち「中国は、武漢を封鎖したのをはじめ、様々な規制を強権的に実行しました。自由主義陣営では限界のあるそうした行動により「見えざる脅威」を封じ込めることができたということになれば、現代の独裁の持つ強みのようなものが、新しく世界史に提示されることになるかもしれません。」との発言が眼にとまった。
また米スタンフォード大学フーバー研究所上級研究員で有数の歴史家のニーアル・ファーガソン氏からの「コロナ禍封じ込めで民主制とIT全体主義のどちらに軍配が上がるのかが重要です。米欧が都市封鎖など強硬策をためらい感染拡大を許したのに対し、中国は個人の権利を無視した強硬策で奏功しつつあるようです。それが最終結果であるのなら、IT全体主義が正当性を得てしまいます。」(4月12日読売新聞)との更に断定的な発言を聞き、今回のコロナ問題が投げかけたイデオロギー的な意味について改めて考えさせられた。
中国が世界に先駆けて感染爆発を起こしたがゆえに、早々にピークアウトして鎮静化した。その後世界が一周遅れで感染爆発を起こしたがゆえに、中国は救世主のごとき顔をして欧米やアジア・アフリカに医療用機材の提供や医療関係者の派遣を行っていることから、この意見に同調する向きもあるかもしれない。

確かに1月23日武漢市封鎖以降、ほぼ2か月で鎮静化できたことは、一党独裁国家ならではの強権によるところが大きい。ただ忘れてならないのは一党独裁国家であるがゆえに起こりやすい情報操作(隠蔽)が、中国の初動対応を遅らせ感染爆発をもたらすとともに、世界各国の初動対応まで遅らせパンデミック(世界的大流行)を引き起こしたということである。
12月8日武漢市で原因不明の最初の肺炎患者が報告されてから23日も経過した12月31日になって初めて世界保健機構(WHO)に報告されたが、その後も武漢市両会(人民代表会議、政治協商会議/1月6〜10日)、湖北省両会(1月11日〜17日)の重要会議が続いたことから感染症についての公表が後送りされた。また、WHOに報告された前日12月30日には、武漢市の病院に勤務する李文亮医師が、自分が勤務する病院で「SARS(2003年中国などで大流行した重症性急性呼吸器症候群)が確認された」とする内容を、LINEで仲間約150人に流したところ、翌日当局から呼び出され、デマを流したとして「自己批判文」を書かされ」その後「訓戒書」に署名させられる(文芸春秋四月号 「習近平「恐怖支配」が招いた幹線爆発」城山英巳より)という、隠ぺい工作も明らかになっている。
この間、習近平総書記は1月17日にはミヤンマー訪問、19日から3日間は雲南省視察と危機感がないまま事態は推移した。そして18日には武漢の集合住宅「百万亭」において4万世帯が料理を持ち寄る大宴会(万家宴)を当局が放置し感染拡大に拍車をかける失態も引き起こした。さらには1月10日頃から25日にわたる中国の大型連休である春節において延べ30億人ともいわれる大移動を許し、中国だけでなく世界に感染を蔓延させた。
ようやく習近平総書記から「感染蔓延の阻止」「迅速な情報開示」の指示がされ、本格的な対応が始まったのは、最初の肺炎患者報告から1か月半後の1月20日であった。
SARSコロナウイルスが2002年11月広東省から始まり世界に蔓延、8,096人が感染、774人が死亡した(WHO発表)時も、WHOへの最初の報告は2003年2月と3か月も遅れた。更に北京の軍事病院では感染者数を過少に発表していたことが発覚して国際的な批判を浴びている。また感染症以外でも、2011年の浙江省温州市で発生した新幹線事故において事故車両がすべて事故現場に埋められ、未だ事故の原因が明らかにされていないことなどをみると、このような情報操作・隠ぺい工作は、一党独裁国家が構造的に抱える病理ではないかと思う。
インフラの分野で遭遇する危機管理は、災害・事故・事件が対象となる。万一発生した場合、初動対応の良否がその後の問題解決のための時間・エネルギーに大きな影響を与えることは過去の経験からも自明である。また抜本的対策としては徹底的な原因究明と再発防止策の策定が欠かせない。今回の新型コロナウイルス問題を通じて得た教訓は、「社会主義型の独裁」国家は感染症との或る段階以降の戦争においては強力な規制により国民を統制し、早期に問題を解決することには向いているが、戦争が大きくなる前にその芽を摘むこと(事前防止/初動対応)や、原因究明を通じて再発防止策を策定することには不向きな仕組であることを銘記すべきだと思う。

今回の武漢発の新型コロナウイルス問題の原因は、海鮮市場の野生動物からの感染、武官の研究所から流出等の諸説が報道されている(WILL5月号「新型ウイルス 武漢の研究所から流出濃厚」米国人口調査研究所長ステイ―ブン・モッシャーより)ことから、欧米各国では武漢の研究所への立ち入り調査や中国のウイルス発生についての透明性の確保などの原因究明を求める動きが出ている。しかし中国政府は一方的に否定するとともに、3月12日には中国外務省の趙立堅副報道局長が根拠不明の「米軍持ち込み説」を唱えるなど(崔天凱駐米大使が5日後に否定)、中国政府の原因究明への真摯な姿勢は感じられない。
資本主義社会と共産主義社会とのイデオロギー論争はソ連の崩壊等で概ね決着がついたが、冒頭にも紹介したように中国の台頭で国家独裁主義的資本主義と自由(民主)主義的資本主義の新たな対立軸が出てきている。自由主義陣営においては国民の価値観が多様化する中で一定の理念に基づく政策がコンセンサスを得にくくなり、バラマキ型のポピュリズムが世界的に台頭しつつある現状をみると、その行く末は必ずしも楽観できない。また日本の場合、戦争のような超非常時を想定した体制・制度についての議論はこれまでタブー視されてきた。大災害に加え第3次世界大戦にも例えられる今回のような感染症が定期的に到来する可能性が高いことを考えれば、ソフト・ハード両面での超非常時に対する事前対策、有事に至った場合における強力な私権制限やこれに伴う補償・支援の有り方に関する制度を整えることなどにより自由(民主)主義的資本主義の弱点を強化し、「光」よりはるかに大きな「闇」を持つ国家独裁主義的資本主義への流れを変える必要があると思う。
(2020年4月22日付日刊建設工業新聞掲載寄稿に加筆修正のうえ再掲した)
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「緊急事態宣言」の発令に思う

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シビルNPO連携プラットフォーム常務理事 土木学会連携部門長
土木学会 教育企画・人材育成委員会 シビルNPO推進小委員会 委員長
メトロ設計梶@技術顧問 田中 努


2020年4月7日、「緊急事態宣言」が発令されました。大都市圏の7都府県を対象に、5月の連休明けまでの約1ヶ月間、医療関係へのいくつかの強制と、人の移動の自粛要請です。
そこで思うのが下図。リスクマネジメントやBCPでお馴染みの「復旧曲線」です。

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1.耐震と防災とリスクマネジメント
私は、耐震設計技術者で、阪神淡路大震災の直後に、めちゃくちゃになった街を歩き、人の力の限界を体感しました。その後、レベル2外力の存在を前提に、構造物は壊れるが市民社会の被害をある範囲に抑える「耐震設計」と、併せて、被災後も道路や行政の機能を維持するための「防災計画」が広がりました。

一方、私は、品質管理の仕事もして、協会のマネジメントシステム委員会の委員長もしていました。コンサル業務は、品質管理より、プロジェクトマネジメント(PM)の方が馴染み、その延長でリスクマネジメント(RM)も学びました。それぞれ、アメリカの大恐慌時代やヨーロッパの大航海時代に始まる世界の知恵です。

2.損害をマネジメントする!
さて、左の図ですが、大地震でも大洪水でも、新型コロナウイルスでも、災害が発生してからの復旧・復興過程は、概ねこうなります。そして、A〜D点の位置(時期とレベル)で、私たちが受ける損害が変わります。

A点は、事前対策をどこまでして、レベル低下をどの程度に抑えるか。例えば、社員の安全確保と安否確認だけでは、事業の再開が遅れ、会社が潰れるかも。資金と相談しながらの決断です。
 B点は、「危機管理」の結果です。事前対策の実効性と、社長等のタイムリーで的確な指揮で決まります。「緊急事態宣言」はこれの一部。
 C点は、いつまでに元に戻すかの決意。例えば、神戸港は取引量が戻るのに20年掛かりました。復旧を待っていられない会社が、他の港に移り、それが「日常」になってしまったからです。
 D点は、リスクマネジメントの「ツボ」。私は、神戸に、震災前も後も、度々行きました。被災した方には申し訳ないですが、「前よりいいじゃない!よかったね。」と言いたくなります。「ひどい目に遭ったのに元通り」では、元気が出ません。2015年国連防災会議の仙台宣言「Build Back Better」です。
新コロナウイルスの猛威を乗り越えたら、様々な災害に思いを巡らせ、A〜D点の各目標を定め、「事前対策」と「危機管理」の計画(BCP)を見直さなければ・・と、改めて思います。
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小学校出前授業

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シビルNPO連携プラットフォーム常務理事 協働推進部門長
日本ファシリティマネジメント協会 インフラマネジメント研究部会副部会長
インフラメンテナンス国民会議 市民参画フォーラムリーダー
アイセイ(株) 代表取締役 岩佐 宏一


今年に入り2月の6日と13日の2日間、待ちに待った「小学校出前授業」を行った。小学5年生を対象に5・6時限目(1コマ45分×2コマ)の社会科の特別授業として『インフラとは何か』、『インフラを大切に使わないとどうなるのか』を子供たちと一緒に考えた。
約1年前の2019年1月28日にこの企画はキックオフした。
子供たちにインフラは与えられるものじゃない!自分たちのものだって知ってもらいたい!この熱い気持ちを、賛同いただいた子供向け職業体験施設で働くSさんと、どうやって子供たちにこの気持ちを理解してもらえるかを話したのを覚えている。この時から自分の凝り固まった頭(インフラはこうでこうあるべきだ!)を粉々に砕き、真正面で見てきたインフラメンテナンスをがらり裏側から市民目線になるよう特訓が始まったことを鮮明に覚えている。
さらに2019年2月から合流した都内小学校で教鞭をとるK先生、Sさんの仲間のAさんを仲間に迎え、2020年1月の授業開催を目標に企画を加速させた。が、やはり当初からの凝り固まったわたしの企画では、K先生の理解を得られない。先生から発せられた言葉は、こどもが理解できる言葉を使い、こどもの目線で授業のシナリオを作成すること。これがとんでもなく大変だった。
ビジネスで置き換えると「ゲームチェンジ」という概念があったり、社会一般的には「ものの見方を変える」「その人の立場になって考える」なんて言葉からやり方は山ほど出てくるが、実際やってみようとすると中々手ごわい。
そもそも「インフラ」って言葉でさえ、我々は標準語のごとく用いているが、立場変われば異国のことばである。

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このようなカードを作成し、このカードを2つに分けて?から始め、概ねみんなのものと個人で使うものに分けるので、「みんなで使うものがインフラなんだよ」といった感じである。
普段だったら、インフラって、橋梁やトンネル、電気、ガス…と説明を始めるが、カードを使い自ら考えながら解いていく切り口でないと、子供たちはこちらの領域に入ってこないらしい。
これが目線を変えることのようだ。

さて話を戻すが、小学5年生は社会科で何を学んでいるかご存知でしょうか?こちらは出前授業で「インフラ」という情報を小学生へ与えることができれば済むものだと考えていたが、とんでもない。小学校5年生になるまでに学んだ社会科、これから学ぶ社会科から、どの場面で違和感なく伝えることができるかと言ったカリキュラムも重要だ。言われれば当たり前なことかもしれないが、こちらはド素人。授業をする学年やタイミングも重要なことであることを学んだ。
4年生や5年生の社会科の教科書、学習指導要領の確認、すでに実施されている出前授業の調査、〇〇科学館といった会場視察をすることで出前授業コンテンツの構成やどのように話せば伝わるのかを、少しづつではあるが理解することができた。
毎月の打合せを重ね、やっとの思いで2019年12月にリハーサルに挑む。授業を終えた夕方に小学校へ行き、がらりとした教室で授業のリハーサルを行った。

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リハーサル時のシナリオ

1コマ45分の限られた時間のなかで、シナリオを片手に授業を始めた。同時に説明用資料をスライドで流し、本当に伝えたい箇所を計画した板書イメージを元に、黒板にフリップを貼る。この間子供たちがいるかのように質問や答えを話す。まったくの余裕がない自分に子供たちがいたらどうだったんだろう。伝えたいことが半分も話すことができないと…感じた。

リハーサルを数回繰り返し、撮影したビデオを見て、本番に向け修正することとなった。

出前授業本番、1年間の成果を発揮し子供たちにインフラの大切さを伝えることができるか。現場スタイルである、作業着にヘルメット、安全帯、安全チョッキ、安全靴、小物のヘッドライトや点検ハンマー、コンベックスを携えて

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このスタイルの掴みから、子供たちの反応はなかなかで授業にすんなりと入ることができた。
インフラカードからインフラを知り、インフラがなくなったらを話し合い、インフラを点検している姿から点検や措置することで長持ちさせる意味を、そしてみんなでできることをグループワークで学んだ。1年間の成果があっという間の45分×2コマの授業となった。
子供たちから、私たちができることがあると思わなかった。インフラがないと生活が大変だということ。できることをやるというのが心に残りました。私もできることは協力していきたいと思いました。 …ありがとう。
今年度も他区も含めて出前授業を拡大します。
この楽しさにご興味がある方、是非ご一緒しませんか。限られたメンバーではなく、多くの方に参加してほしいと思っております。
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