2020年10月01日

人生100年社会

前シビルNPO連携プラットフォーム常務理事
(株)アイ・エス・エスグループ本社相談役
NPO法人SLIM Japan理事長
(財)人生100年社会デザイン財団理事
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中村 裕司


■新財団のご紹介とCNCP
2020年10月1日、(財)『人生100年社会デザイン財団』が発足しました。
この財団は、東京大学名誉教授・神野直彦先生(財政学)と東京大学大学院教育学研究科教授・牧野篤先生(生涯教育)のお二人を代表者に頂き、人生100年時代の個人の生き方と社会制度のあり方を構想しようとする財団です。
きっかけは、2年ほど前にCNCP通信に寄稿させて頂いた『Gerontology』でした。日本語では当時『老年学』と訳されていたその研究領域に興味を抱くと同時に、Gerontologyを老年学という医療領域だけでなく、「高齢社会工学」という、ニュアンスがcivil engineeringに近い領域まで広げたいと考えておりました。
そこで行き着いたのが、当時東京大学にできていた「高齢社会総合研究機構」でした。その副機構長であった牧野先生と知己を得、その縁からCNCPサロンに牧野先生をお迎えし講演をして頂きました。
爾来1年余、多くの方々のお知恵とお力を得ながら、牧野先生のご発案により財団設立の機運が盛り上がり、約半年間準備作業を進めた末、10月の発足に漕ぎつけた次第です。

■財団を取り巻く背景
2018年6月内閣府に「人生100年時代構想会議」が設立されて以降、「人生100年時代」を謳う情報が氾濫しています。『Life Shift』の著者リンダ・グラットン教授と小泉進次郎氏の対談の影響もあり、その後「100歳人生」「100年時代」等をタイトルにした本がずらーっと並ぶようになりました。
が、その本の内容は“健康で長生きするための養生訓”であったり、“100年生きるためにいくらお金が必要か”、あるいは“高齢者はどのように残りの時間を充実して生きるべきか”などといったノウハウ本がほとんどです。いわば、長い老後をいかに賢く生き抜くかのための「老後人生の対策」を述べたものが目立ちます。
他方、上の構想会議に呼応するように、「人生100年時代」を取り上げた研究や調査も少なからず見受けられるようになりました。だが、新財団で取り上げる「人生100年社会」は「人生100年時代」とは似て非なる議論となるでしょう。それは「社会」という単語が「時代」という単語と異なるように、です。
■人生100年社会とは?
財団の研究では、「人間の共同生活」の総称を社会ととらえ、人間の集団としての営みや組織的な営みを社会と考えます。つまり人間が一つの共同空間に集まっている状態、またその集まっている人と人とのあいだの結びつきをして社会と称します。
したがって、「人生100年社会」とは100年以上生きることが前提となった人間の集まっている共同空間・組織と、そこに生きる人間の結びつきを議論の対象として取り扱います。「人生100年時代」に対し、「人生100年社会」のほうは有形無形に関わらず“空間・組織”と“むすびつき”を対象にする点が特徴です。
■「ありうる人生100年社会」の構図
未来には、「ありたい未来」「あるべき未来」「ありうる未来」があります。人生100年社会では「ありうる100年社会」の構図を描きます。

逆に、今すぐ思い付く「あってはならない未来」や「今後ありえない未来」については、いろんな書物になかで次のように言われています。カッコ内は著書名です。
@65歳で伐採する社会(シン・ニホン)
AAI-ready化ができていない社会(同)
B3段階一方通行ステージ社会(ライフ・シフト)
Cエイジ=ステージという図式の社会(同)
Dつながらない社会(持続可能な「人生100歳社会」に向けて)
E高齢者対応の諸制度onlyな社会(ライフ・シフト)
Fホワイトカラー志向社会(働き方5.0)
G意識だけ高い系社会(同)

■今後の活動
財団は、アカデミー事業、Re-Viveコミュニティ事業、アクレディテーション事業の三つを軸に、これから活動を進めて参ります。財団にはおよそ20名ほどの著名な先生方、官界の方、産業界の方に名を連ねて頂いております。今後も活動状況についてCNCPの皆様と情報を共有させて頂ければ幸いです。

追記:私は、先の総会において理事を退任させて頂きました。2年間有難うございました。新任は横塚雅実氏です。これからも応援をしていく所存です。

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コロナ禍で思うこと

シビルNPO連携プラットフォーム 理事
(一社)建設コンサルタンツ協会 副会長
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酒井 利夫


全世界がコロナの大きな影響を受けている。日本においてもこれまでの社会・経済に内在していた様々な問題が顕在化し、具体的な事象から日本が置かれていた現状を実感させられる状況が続いているが、一方で新しい動きも見え始めている。
例えば、マスクや消毒薬、医療用ガウン等の不足問題は、生産拠点が特定国に偏っていたことに起因し、その奥には極端な「利益第一主義」的なグローバル経済という背景が存在していたことに多くの国民が気付いた。そんな中で4月27日付の日経新聞の一面には『配当より雇用維持を。機関投資家が転換』とあり、「短期的な利益追求より社会的課題に向き合う方が長期的な成長につながると株主の考えが変わってきた」との指摘があった。

また、多くの国民が直接的に対応したことによる新たな変化も起きつつある。例えばテレワーク、オンライン会議については、これまで中々進まなかったが、外出自粛要請の中で、結果的に急速に普及することとなった。いくつかの課題も指摘されてはいるが、「どこにいても仕事ができる」、「通勤ラッシュに耐えながら都心に通勤する必要がない」、「遠距離を理由に参加できなかった会議に参加できるようになった」など効果を実感している国民も多い。社会構造を変える「きっかけ」となり、そしてそれを推進する「有効なツール」ともなり得る新しい流れとして期待したい。

しかしコロナとは関係なく毎年自然災害が多発している。昨年の台風19号も各地に大きな被害を残したことは記憶に新しいが、その中でもいくつかの治水プロジェクト等が完成していたため被害が最小限に押さえられた例があったことも事実である。例えば台風直撃直後であったものの、鶴見川流域の総合的な対策が功を奏してワールドカップ「日本vsスコットランド戦」が開催でき、しかも正々堂々と日本が勝利し決勝トーナメントに進出したことは特筆すべきことである。今年も各地で災害が発生している。特に7月の熊本県球磨川の被害は甚大であった。8月下旬、現地では、地元流域自治体と県・国との検証委員会が開催され、ダムが存在した場合の効果についても確認することとなったとの報道があった。データや事実に基づいて客観的かつ冷静に検証しその結果を今後に活かしていただきたい。

コロナをきっかけに既に社会が変わりつつある。今こそ「よりよい社会」へ「変えていくチャンス」と捉えたい。例えば、自然災害やパンデミック等、社会に甚大な影響を与える「外力」に対しても「余裕をもった、強く・しなやかで、安全・安心な社会」にすべきだと強く思う。また、「思いやりのある社会」、「短期ではなく長期的志向をもった持続可能な社会」なども新しい社会に向けての重要な考え方だと思う。国民的な議論がなされ、より多くの国民が共感できる「考え方」が形成され、共有されれば、よりよい方向に「社会を変えていく」ことも可能であると信じたい。社会を構成する一員として、そしてそれを支える「社会インフラ」に関わる者として、多くの方々と議論を重ねながら自分にできることから行動を起こしていきたいと思う次第である。
(令和2年9月28日提出)
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紙上ワークショップ With コロナのシビルNPO

Withコロナの社会や暮らしの変化をどうとらえ、シビルNPOにはどのような役割を果たすべきか?
これからの私たちの活動の方向性を見定めるうえで、大きな変化であることは間違いありません。
Vol.75(2020/7)でみなさまからのご意見を募ったところ、多数の回答をいただきました。
これからの議論が展開されることを期待し、みなさまからの回答をそのまま掲載いたします。
※紙面の都合上、回答者の敬称を省略いたしました。あしからずご了承ください

CNCP_Vol.78_13_17.pdf
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